artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

ガエ・アウレンティ《カタルーニャ美術館》

[スペイン]

ガエ・アウレンティが改修を手がけた《カタルーニャ美術館》へ。教会から剥がした壁画を空間インスタレーションのように展示するロマネスクのコレクションはすごい。巨大な古典主義建築の内部にロマネスクとゴシックを挿入するプログラムゆえに、様式の矛盾を調停する入れ子建築的なリノベーションが興味深い。カタルーニャ美術館では企画展「INSURRECCIONS」を開催し、物理的なレベルから社会・政治レベルまで、蜂起、反乱などに関するアートを紹介する。

2017/03/29(水)(五十嵐太郎)

菅野ぱんだ「Planet Fukushima」

会期:2017/03/28~2017/04/10

新宿ニコンサロン[東京都]

菅野ぱんだの出身地である福島県伊達市は、東日本大震災で大事故が発生した福島第一原子力発電所から北西に約50キロ、宮城県との県境に位置している。強制避難の対象地域からは外れたものの、市内には放射能のホット・スポットが点在し、自主避難をした住民もいた。今回の展示は、彼女が震災直後から撮り続けた、同地域の写真群をまとめたものだ。
人物あり、建物あり、出来事ありの、やや雑多にさえ思える写真を撮り続けるうちに、菅野は視界が3つの領域に分断されているように感じてきたのだという。「遠景(風景)」と「近景(人間)」とのあいだに、「中景(放射能という異物)」が挟み込まれているのだ。そして同時に、過去─現在─未来という滑らかな時間の流れも、震災という大きな裂け目によって分断されることになる。そのような認識を表現するために、彼女はフレームの中に大小さまざまな複数の写真をおさめ、それらのフレームをさらに縦横に連ねていく展示方法をとることにした。それは、観客の固定した視点を攪乱するとともに、彼女が体験した時空間のズレや違和感を共有させるために、とてもうまく働いていた。
展示された写真のなかで特に強く印象に残るのは、何度も登場してくる放射能の線量計のクローズアップと、汚染土の処理施設の異様な景観を、上空から俯瞰して捉えたカットである。福島の出来事を特定の地域だけの問題として押し込めるのではなく、ミクロからマクロまで伸び縮みする視点を設定し、まさに宇宙規模の「Planet Fukushima」のそれとして捉え直そうとする意欲的な取り組みといえる。またひとつ、「震災後の写真」の優れた成果が、しっかりと形をとってきた。写真集としてもぜひまとめきってほしい。なお、本展は4月27日~5月3日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2017/03/28(火)(飯沢耕太郎)

The Legacy of EXPO'70 建築の記憶─大阪万博の建築

会期:2017/03/25~2017/07/04

EXPO'70パビリオン[大阪府]

1970年に行なわれた大阪万博(日本万国博覧会)の建築に焦点を合わせた企画展。会場には、アメリカ館、英国館、せんい館、富士グループ・パビリオン、日立グループ館、三菱未来館などの建築模型や図面、記録写真、映像などが並び、EXPOタワーの模型や解体過程の記録写真も展示された。当時の人々は大阪万博を見物して、21世紀にはこんな街並みが広がっているのだろうと思い込んでいた(筆者もその一人)。しかし47年の時を経た今、パビリオン建築はむしろレトロフューチャーな趣。われわれはすでに「未来」を追い越してしまったのかもしれないと、ちょっぴり感傷的な思いに浸ってしまった。それはさておき、大阪万博は建築の一大実験場であり、パビリオンには、エアドームや吊り構造、黒川紀章らが提唱したメタボリズムなど、当時の最新技術や思想がたっぷりと注ぎ込まれていた。つまりパビリオン建築は、建築が手作りの1点ものから量産の工業製品へと移り変わる時代のシンボルであり、宣言でもあったのだ。本展の意義は、こうした事実を評論や論文ではなく、当時の資料を基にした展覧会で示した点にある。

2017/03/24(金)(小吹隆文)

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プレビュー:KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017

会期:2017/04/15~2017/05/14

京都市内16カ所[京都府]

京都の歴史遺産、寺社、町家、近代建築などを会場に行なわれるフォト・フェスティバル「KYOTOGRAPHIE」。過去4回の総入場者数は約25万人を数え、年々注目度が上がっている。優れた写真作品と国際観光都市・京都の魅力を同時に味わえるのだから、人気を博するのも道理だ。今年は16会場を舞台に国内外の写真家やコレクションを紹介する。なかでも、二条城二の丸御殿台所東南隅櫓の「アーノルド・ニューマン展」、誉田屋源兵衛 竹院の間の「ロバート・メイプルソープ展」、両足院(建仁寺内)の「荒木経惟展」は注目を集めるだろう。また、美術館「えき」KYOTOの「アニエスベー フォトコレクション」(会期はほかと異なる)も見応えがありそうだ。なお、同フェスティバルでは毎年テーマを設定しているが、今年のテーマは「LOVE」。恋愛や種の保存だけでなく、さまざまな文化的背景を持つ多種多様な愛の姿を提示するとのこと。昨今の国際的な世相に対するメッセージも兼ねているのだろうか。

2017/03/20(月)(小吹隆文)

「愛しきものへ 塩谷定好 1899─1988」

会期:2017/03/06~2017/05/08

島根県立美術館[島根県]

2016年の三鷹市美術ギャラリーでの展覧会「芸術写真の時代 塩谷定好展」に続いて、島根県松江市の島根県立美術館で「愛しきものへ 塩谷定好 1899─1988」展が開催されている。同美術館に寄贈された作品を中心に、7部構成、全313点という大回顧展である。大正末から昭和初期にかけての絵画的な「芸術写真」のつくり手として、塩谷が技術だけではなく高度な創作力においても、抜群の存在であったといえる。
今回、特に印象深かったのは、一枚のプリントを仕上げるにあたっての塩谷の恐るべき集中力である。『アサヒカメラ』(1926年6月号)掲載の「月例写真第4部」で米谷紅浪が一等に選んだ《漁村》は、彼の初期の代表作のひとつだが、島根半島の沖泊で撮影された、海辺の村の集落の俯瞰構図で捉えた写真のネガから、塩谷は何枚も繰り返しプリントを焼いている。それらの写真群は、印画紙を撓めて引き伸ばす「デフォルマシオン」や油絵具(塩谷はそれに蝋燭の煤を加えていた)で加筆する「描起こし」の手法を用いることによって、彼の理想のイメージに少しずつ近づけられ、ついに10年後に傑作《村の鳥瞰》として完成する。今回の展示は、塩谷のプリント制作プロセスが明確に浮かび上がってくるように構成されており、その息遣いが伝わってくるような臨場感を覚えた。この時代のピクトリアリズム(絵画主義)的な傾向は、1930年代以降に全否定されるのだが、もう一度見直すべき魅力が備わっていることは間違いない。日本の「芸術写真」の再評価を、さらに推し進めていくべきだろう。
塩谷が生まれ育った鳥取県赤碕(現・琴浦町)には、回船問屋だった生家を改装した塩谷定好写真記念館も2014年にオープンした。その近くの大山の麓の伯耆町には、よき後輩であった植田正治の作品を展示・収蔵する植田正治写真美術館もある。山陰の風土と彼らの写真との関係についても、再考していく必要がありそうだ。

2017/03/19(日)(飯沢耕太郎)

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