artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
白石ちえこ写真展「島影 SHIMAKAGE」
会期:2017/03/07~2017/03/19
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
日常にある“記憶の原風景”をテーマに制作を続けている写真家、白石ちえこ。本展は彼女が2015年に発表した写真集『島影』から選抜したもので、日本各地の風景をモチーフにした銀塩モノクロプリントである。本作の最大の特徴は「雑巾がけ」という古典技法を用いていることだ。この技法はピクトリアリズム(絵画主義)が盛んだった1920~30年代に日本で開発されたもので、プリントした印画紙にオイルを引き、油絵具を塗るなどして、それらをふき取りながら画面の調子を整える。白石の作品は、風景、建築、遊具、動植物などを捉えているが、一様に暗めのトーンを取っている。それでいて対象の輪郭はつぶれておらず、昼なのか夜なのか、最近なのか一昔前なのか、区別がつかないのだ。観客はその迷宮のような世界で、日常のくびきから解かれた浮遊感を味わうのだ。このような特殊技法の作品は、やはり実物を見るのに限る。その機会を与えてくれた作家と画廊に感謝したい。
2017/03/07(火)(小吹隆文)
総合開館20周年記念 夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編
会期:2017/03/07~2017/05/07
東京都写真美術館 3階展示室[東京都]
幕末・明治期の写真の研究はあまり目立つ分野ではないのだが、ここ10年あまりのあいだに新たな発見が相次ぎ、大きく進展している。その変化をもたらす大きな要因になったのが、東京都写真美術館で4回にわたって開催された「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史」展だったことは間違いない。2007年の「関東編」を皮切りに、「中部・近畿・中国地方編」(2009)、「四国・九州・沖縄編」(2011)、「北海道・東北編」(2013)と続き、今回その「総集編」が開催されることになった。
同館学芸員の三井圭司が主導したこの展覧会の企画は、まず全国の博物館、図書館、資料館などへのアンケート調査から開始された。アンケートを送付した7987機関のうち、2996機関から回答があり、そのうち358機関に写真が所蔵されていることがわかった。そのことによって、幕末・明治期の「初期写真」の全国的な分布が明らかになり、意外な場所、人物同士の写真の結びつきも見えてきたのだ。
これまでと同様に、今回の「総集編」でも「であい」、「まなび」、「ひろがり」という3部構成で写真が配置されている。西欧諸国から伝えられた写真術に日本人がどのように「であい」、その技術を「まなび」とり、いかに社会のなかに定着、拡大していったのか、そのプロセスを、重要文化財を多数含む実物の写真群でたどる展示は、じつに味わい深く、眼を愉しませてくれる。名刺版の肖像写真を少し高い場所に立てて展示し、写真台紙の表と裏を同時に見せる。また、アルバムを見せる時に、開いたページ以外の写真は複写して横の壁にスライド映写するといった、これまでの展覧会で積み上げられてきた観客への配慮も、すっかり板についてきた。今後の「初期写真」の展示企画の、モデルケースになっていくのではないだろうか。
展示作品の総出品点数が375点におよび、写真を所蔵する機関からの要請で展示期間が限られるため、会期中に4回の展示替えを行なうのだという。観客にとっては、やや不親切なスケジュールになってしまったのが残念だ。また、各作品のキャプションも、もう少し丁寧に、時代背景も含めて記述してほしかった。細かなことだが、そのあたりが少し気になった。
2017/03/06(月)(飯沢耕太郎)
総合開館20周年記念 山崎博 計画と偶然
会期:2017/03/07~2017/05/10
東京都写真美術館 2階展示室[東京都]
山崎博自身が発案したという展覧会のタイトル「計画と偶然」がとてもいい。山崎の写真は、基本的に被写体に依拠するのではなく、カメラとフィルムという光学装置をある条件の下で使用し、そこに発生してくる「光学的事件」をあたう限り精確に捉えることをめざしている。そこには、「計画」を厳密な手続きで実行することが求められるのだが、実際にはもくろみどおりに事が運ぶことはまずない。代表作といってよい、海面から天空に躍り出る太陽の軌跡を、ND(減光)フィルターを使って長時間露光で写しとめた「HERIOGRAPHY」のシリーズにしても、天候、季節、雲の有無、海面の状態などによって、どんな画像が定着されるかは「偶然」に身を委ねるしかない。つまり「計画と偶然」という、おそらく写真表現のあり方を最も本質的に指し示す言葉の射程に、山崎の45年以上にわたる写真家としての軌跡が、すべて含み込まれているのだ。
今回、東京都写真美術館で開催された、美術館レベルでは最初の大規模展となる本展には、初期から近作まで、211点以上の作品が、ROOM1からROOM7まで、7つのパートに分けて展示されていた。それを見ると、きわめて多様なアイディアに基づく写真群であるにもかかわらず、揺るぎないものの見方が貫かれているのがわかる。自宅の窓からの眺めをさまざまな手法で撮影した「OBSERVATION 観測概念」(1974)と、最新作の「UNTITLED(水のフォトグラム)」(2017)の両方に、自分の手が写り込んでいるのが象徴的だ。山崎には、あくまでも自分の身体の位置にこだわりつつ、写真を媒介にして現実世界のあり方を観測・探究しようとする一貫した姿勢がある。あらためて、その弛みない写真家としての歩みを、じっくりと見直すことができた。
展示構成については、一言いいたいことがある。ROOM1からROOM7までの区分と、作品の並べ方とが、特に後半になると混乱してくる。各作品にはキャプションがついてないので、観客は入口で渡されるリストの番号を頼りに見ていかなければならないのだが、その番号順に作品が並んでいないので、より混乱に拍車がかかる。必ずしも年代順に展示する必要はないが、もう少しすっきりと会場を構成してほしかった。
2017/03/06(月)(飯沢耕太郎)
ソーシャリー・エンゲイジド・アート展 社会を動かすアートの新潮流
会期:2017/02/18~2017/03/05
アーツ千代田3331メインギャラリー[東京都]
ソーシャリー・エンゲイジド・アート。訳せば「社会的につながる芸術」ですかね。長いんで「SEA」と略す。これまで「コミュニケーションアート」「関係性の美学」「アート・アクティヴィズム」「地域アート」などと呼ばれてきた、社会とかかわるアートの総称だ(でもそれぞれ少しずつ守備範囲が異なる)。出品はペドロ・レイエス、西尾美也、アイ・ウェイウェイ、スザンヌ・レイシー、丹羽良徳ら。社会とかかわるアートだから、成果物(作品)はあまり重視されず、おのずとこうした展覧会は資料展か記録展にならざるをえない。それはそれで貴重なものだが、そもそもこうしたギャラリーに収まるアートへの反動として生まれた側面もあるので、展覧会として見せるのはどうなんだろうという疑問もある。そのことも含めて、問題提起としては価値ある企画だ。
2017/03/05(日)(村田真)
ポコラート全国公募vol.7 応募作品一挙公開!!
会期:2017/03/03~2017/03/05
アーツ千代田3331体育館[東京都]
元体育館だった巨大な空間にポコラートがびっしり並んだ。何百点、いや何千点あるんだろう。このなかから審査で選ばれた作品が「ポコラート全国公募vol.7」として正式に展示されるわけだ。ポコラートってなんだ? と問われると困るが、たぶんアートの常識にとらわれないアートらしきものだろう。それがこれだけ集まるともはや壮観を超えて、こちらのアートの常識が揺らぎ始め、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。それならこれを正式の展覧会にして、あえて審査して大半を落とす必要はないとの意見もあるはず。でもこれらを見ているとやはり優劣というか、おもしろいかおもしろくないか、あるいは刺激が強いか弱いかには分けられる。ポコラート界も競争が熾烈になりつつあるようだ。
2017/03/05(日)(村田真)