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写真に関するレビュー/プレビュー

ポール・スミス展 HELLO,MY NAME IS PAUL SMITH

会期:2016/06/04~2016/07/18

京都国立近代美術館[京都府]

ファッションの展覧会といえば、歴代のコレクションがズラリと並ぶ服飾展を連想するのが当然だ。しかし本展の主役は、イギリスを代表するファッション・デザイナーであるポール・スミス自身。彼が10代の頃から収集してきた約500点もの美術品や、雑然としたオフィスやデザインスタジオ、わずか3メートル四方の第1号店などの再現、一風変わった郵便物、自身の頭の中をテーマにした映像インスタレーション、ストライプのカラーリングを施したミニ(自動車)とトライアンフ(バイク)などが並び、歴代コレクションは最後にやっと登場するといった具合だ。展示総数は約2800点。あまりにも数が多くて集中力が続かないほどだが、ポール・スミスの人柄は確かに伝わった。きっと彼は、デザイナーである以上に、プロデューサー体質なのだろう。でなければこんな展覧会は実現しない。記者発表には本人も出席し、気さくなリアクションを連発していたのが印象的だった。その席で英国のEU離脱問題について彼がどう考えているか聞きたかったが、タイムオーバーで質問できなかったのが残念だ。

2016/06/03(金)(小吹隆文)

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須崎祐次「Hole of Human」

会期:2016/05/13~2016/06/11

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

須崎祐次の個展「Hole of Human」を見て、あらためて写真展示における「パレルゴン」(額縁、マット、台紙、ピンなど)の意味について考えた。画像そのものを本質として考えれば、それらは余分な装飾的な要素にすぎない。写真の純粋性を究めるならば、なるべくシンプルでミニマムな展示のあり方がいいという考え方もあるだろう。だが、今回の須崎の作品でいえば、古いゴシック的な額縁を使ったり、画像の上に穴がたくさんあいたプラスチック板を重ねたりといった「パレルゴン」的な操作は、写真の内容と分ちがたく結びついており、一体化して、面白い視覚的な効果を生じさせている。凝りに凝った「コスプレ」のマスクや衣装(自分でデザインして特注したもの)を身につけた女性たちの身体の一部を、複数の穴から覗けるようになっているのだが、その仕掛けが無理なく、効果的に働いているのだ。
須崎は日本大学芸術学部写真学科卒業後、1988~92年にニューヨークで写真家として活動した。帰国後、92年に写真「ひとつぼ展」の前身にあたる、ガーディアン・ガーデンのコンペでグランプリを受賞して注目されるが、その後は模索の時期が続いていた。だが、前回のEMON PHOTO GALLERYでの個展「COSPLAY」(2013)のあたりから、自分のこだわりを形にしていく技術力の高さと、研ぎ澄まされたフェティッシュな嗜好とがうまく合体して、独自の写真の世界が生み出されつつある。視覚的なエンターテインメントとしてのレベルの高さも感じるので、日本の「コスプレ」文化に関心が深い、海外での本格的な展示も期待できそうだ。

2016/06/02(木)(飯沢耕太郎)

荒木経惟「センチメンタルな旅─コンプリート・コンタクトシート」

会期:2016/05/25~2016/07/23

IMA gallery[東京都]

荒木経惟は1971年7月7日に、広告代理店・電通の同僚だった青木陽子と結婚式を挙げ、京都と福岡県柳川への4泊5日の新婚旅行に出発した。そのあいだに撮られた写真108枚を構成して、1000部限定の自費出版で刊行したのが『センチメンタルな旅』であり、荒木の実質的なデビュー作品集になる。日本の写真表現の歴史におけるこの写真集の重要性については、すでに語り尽くされているといってもよい。だが、今回東京・六本木のIMA galleryで開催された、「センチメンタルな旅」のコンタクトシート(ネガの密着プリント)の全点展示を見て、あらためてその凄みに震撼させられた。荒木は新婚旅行のあいだに35ミリのモノクロームフィルム17本を撮影し、さらに東京に帰ってから撮影した1本分のネガを合わせて写真集を構成しているのだが、その作業全体に神の手が及んでいるのかと思えるほどの奇跡的な出来栄えなのだ。
18本分のコンタクトシートを辿っていくと、荒木はあらかじめ周到に写真集全体の構成を考えてから撮影したように見えてくる。だがそうではないだろう。一見シナリオに沿って展開しているようだが、次に何が起こるのか、荒木がそして陽子がどう動くのかは、成り行きまかせだったのではないだろうか。とはいえ、全身全霊をアンテナとして次の展開に備えているような緊張感が全編に漂っており、写真家とモデルとのテンションの高さはただ事ではない。さらに、コンタクトシートによって、はじめて見えてきたこともある。例えば、あのよく知られた「死の舟」のカットの前後には、5カット分シャッターが切られており、舟の中に横たわっていた陽子は、その後身を起こして荒木のほうを見つめているのだ。そう考えると、どのカットを選択しどのカットを落とすのか、また、それらの写真の前後を微妙に入れ替えながらどう並べるのかで、そのシリーズ見え方がまったく違ってくることがよくわかる。そのデリケートな作業を、荒木がほぼ完璧に成し遂げていることが、コンタクトシートからありありと見えてくるのだ。
なお、ほぼ同時期に、1階下のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムでは「写狂老人A 76齢」展(5月25日~6月29日)が開催された。恒例の荒木の誕生日記念展だが、こちらのテンションの高さも特筆に値する。2002年以来撮り続けているKaoRiを6×7判カメラで撮影したカラー作品「写狂老人A 76齢」から9点と、パリのギメ東洋美術館の個展のために撮り下ろされた「トンボー・トウキョー」シリーズから471点(スイッチ・パブリッシングから同名の写真集も刊行)。衰えを知らないエネルギーの噴出には、驚きを通り越して唖然としてしまうほどだ。

2016/06/01(水)(飯沢耕太郎)

荒木経惟「センチメンタルな旅─コンプリート・コンタクトシート」

会期:2016/05/25~2016/07/23

IMA gallery[東京都]

1971年に限定1,000部の私家版として世に出た荒木経惟の写真集『センチメンタルな旅』。陽子夫人との新婚旅行の一部始終を捉えたこの“幻の写真集”のコンタクトシート全18枚、653カットを公開している。関西、九州方面だろうか、行く先々の風景に、電車のなか、ホテルや旅館の部屋、ベッドや布団の上にもカメラを向け、妻はときにヌードで、ときに行為中の淫らな姿も見せている。この写真集で印象的なことのひとつは、陽子夫人がずーっと無表情というか、むしろ不機嫌そうな顔しか見せていないこと。いくらなんでも新婚旅行で笑顔ひとつ見せないのは不自然なので、きっと笑顔の写真はカットされたんだろうと思っていたが、ざっと見たところ笑顔はほとんどなかった。だとすれば、本当に笑顔を見せなかったか、笑顔は見せたけど撮らなかった(撮らせなかった)かのどちらかだ。どっちにしろ不自然だが、この不自然さは新婚旅行中ふたりが「新婚旅行」を演じていたからかもしれない。劇場型犯罪ならぬ劇場型写真。これが「劇写」ってやつか?

2016/06/01(水)(村田真)

写真展 映画館 映写技師/写真家 中馬聰の仕事

会期:2016/04/12~2016/07/10

東京国立近代美術館フィルムセンター[東京都]

国立近代美術館フィルムセンター「映画館」展は、映写技師/写真家の中馬聰が日本各地で撮影したあじわい深い、古い小さな映画館群を紹介する。地域のコミュニティの場となった藤井光の映画『ASAHIZA』のような場所はどこにでも存在する、という風に受けとめることができた。またフィルムセンターからも戦前の壮麗な映画館の写真を紹介する。これらは千人以上の箱も少なくないが、モダニズムやアヴァンギャルドなデザインの大衆的な需要として興味深い。

2016/05/27(金)(五十嵐太郎)

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