artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

101年目のロバート・キャパ

会期:2014/03/22~2014/05/11

東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]

昨年はロバート・キャパの「生誕100年」ということで、あらためて彼の生涯と作品にスポットが当たった。その余波はまだ続いているようで、今回は「101年目」の展覧会が開催された。というより、キャパの抜群の知名度の高さと、写真の人気を考えると、毎年展覧会を開催してもかなりの観客動員が考えられるということだろう。とはいえ、これだけ何度も同工異曲の企画が続くと、いささか食傷気味になってくる。
今回は世界有数の規模を誇る東京富士美術館のロバート・キャパのコレクションを中心とした展示で、「時代」「戦渦」「つかの間の安らぎ」「友人たち」「人々とともに」の5部構成で、約150点の写真が展示されていた。展示構成はオーソドックスかつ堅実なもので、代表作が過不足なく入っている。やや目新しい視点としては、第4章の「友人たち」のパートにヘミングウェイ、ピカソ、バーグマンといった、彼の生涯を大きく左右した人物たちのポートレートが多数集められていることだろうか。これらを見ると大芸術家や大女優から、これほどまでに人間的な魅力溢れる表情を引き出した、キャパの写真家としての手腕と、そのコミュニケーション能力の高さにあらためて驚かされる。
そのなかに、恋人であり、「ロバート・キャパ」という架空の写真家をともにつくり上げたゲルダ・タローのポートレートも含まれていた。幸せそうな笑みを口元に浮かべ、ベッドに横たわるゲルダの姿には、ほかの写真にはない無防備な雰囲気が表われていて、二人の親密な関係が暗示されている。この写真が撮影されてから約1年後、ゲルダはスペイン戦線で落命するわけで、写真家と写真との数奇な運命の綾を感じないわけにはいかない。

2014/03/24(月)(飯沢耕太郎)

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アーヴィング・ペン「Cigarettes」

会期:2014/03/20~2014/04/19

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

アーヴィング・ペンの多彩な作品群のなかでも、「Cigarettes(煙草)」のシリーズは最も好きなもののひとつだ。ペン以外の誰が、地面に落ちている煙草の吸い殻を被写体にすることを思いつくことができただろうか。そこにはペンの写真家としての鋭敏な感受性と、どんな些細な物でも彼のエレガントな作品世界の中で輝かせてみせるという、揺るぎない自信が表われている。
ペンがこのシリーズを最初に発表したのは1975年で、その展覧会を見て衝撃を受けたロンドンのハミルトンズ・ギャラリーのディレクター、ティム・ジェフリーズは、いつの日かそのすべてを展示したいと考えた。それがようやく実現したのは2012年で、今回のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムの個展では、そのうち16点が展示されている。このシリーズを、これだけまとまった形で見ることができるのは、おそらく日本では初めてのことだろう。
煙草の吸い殻そのものの繊細かつ微妙な質感、その奇妙に心そそられるフォルムも魅力的だが、ペンがこのシリーズでプラチナム・パラディウム・プリント(プラチナ・プリント)を初めて用いたというのも重要な意味を持つ。本作が19世紀に流行したこの古典技法を、現代写真において復活させる大きなきっかけになったからだ。あらためて展示された作品を見ると、彼がなぜプラチナ・プリントに目をつけたのかがわかるような気がした。そのセピア調の色味、中間部の柔らかで豊かなトーンは、まさにクローズアップされた煙草の吸い殻にふさわしいからだ。逆にいえば、プラチナ・プリントは普通のポートレートや風景にはあまり向いていないのかもしれない。ペンのこの作品以後、プラチナ・プリントをいろいろな被写体の写真に使うことが多くなったが、もう一度その適性を吟味してみるべきではないだろうか。

写真:アーヴィング・ペン《Cigarette No. 50》New York, 1972/1975年
プラチナ・パラディウム・プリント
イメージ・サイズ: 59.7 x 45.1 cm
ペーパー・サイズ: 63.5 x 55.9 cm
マウント・サイズ: 66 x 55.9 cm
Copyright © by the Irving Penn Foundation
Courtesy Pace/MacGill Gallery, New York

2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)

PHOTOGRAPHY NOW!

会期:2014/03/15~2014/04/20

IMA gallery[東京都]

季刊写真雑誌『IMA』を刊行し、日本の現代写真のコレクションにも乗り出しているアマナホールディングスが、六本木に新たなスペースをオープンした。IMA gallery(展示)、IMA books(書籍販売)、IMA cafeが併設され、写真を「見る」「読む」「買う」「飾る」といったさまざまなアプローチを楽しむことができる。そのうちIMA galleryでは、こけら落としとして「PHOTOGRAPHY NOW!」展が開催された。
出品作家はジェイソン・エヴァンズ、シャルロット・デュマ、モーテン・ラング、クリスティーナ・デ・ミデル、インカ・リンダガード&ニクラス・ホルムストローム、ネルホル、西野壮平、エド・パナル、題府基之、ルーク・ステファソン、クレア・ストランド、シェルテンス&アベネスの12名(組)。かなり雑多な取り合わせだが、多くは『IMA』誌上ですでに作品を発表済みの写真家たちだ。ほかに今年度の木村伊兵衛写真賞を受賞したばかりの森栄喜の作品が特別展示されていた。
作家たちの経歴をざっと見ていて気づいたのだが、彼らの多くは美術系の大学などを卒業している。つまり、コンセプトを手際よく作品化する術をきちんと身につけているわけで、そのすっきりとした見栄えのよさは、まさに「ショールーム」という趣のある会場の雰囲気にぴったり見合っている。正直、このような無味無臭で小綺麗なスペースから、何か創造的な営みが育っていくとは思えないのだが、今後の展開をもう少し見守っていきたいと思う。

2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)

プレビュー:KYOTOGRAPHIE 第二回京都国際写真祭2014

会期:2014/04/19~2014/05/11

京都文化博物館別館、京都駅ビル7階東広場、龍谷大学大宮学舎本館、ASPHODEL、誉田屋源兵衛 黒蔵、虎屋京都ギャラリー、無名舎、下鴨神社細殿、嶋臺ギャラリー、有斐斎 弘道館、アンスティチュ・フランセ関西と京都芸術センター、無鄰菴、鍵善寮、村上重ビル[京都府]

京都市内の博物館、ギャラリー、歴史的建築物、現代建築、町家などを舞台に開催される国際写真展。昨年に第1回が行なわれ、その内容が高く評価された。今年は全15会場で9カ国のアーティストたちの展覧会が行なわれる。ジャンルは、ファッション写真、報道写真、記録写真、現代美術、日本の1960~70年代の写真、コロタイプなど実にさまざま。それらを京都ならではのロケーションとともに堪能できるのが、このイベントの魅力だ。また、ワークショップ、レクチャーなどのパブリック・プログラムが毎週行なわれ、サテライト・イベントの「KG+」も同時開催されるなど、23日間の会期中、京都市内一帯が写真の話題で埋め尽くされる。会場は市内各所に点在しているが、市バスの1日乗車券(500円で均一運賃区間内乗り放題)を使えば大丈夫。春の京都観光も兼ねて出かけてみては。

2014/03/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:プライベート・ユートピア ここだけの場所 ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国美術の現在

会期:2014/04/12~2014/05/25

伊丹市立美術館、伊丹市立工芸センター[兵庫県]

英国の公的な国際文化交流機関ブリティッシュ・カウンシルが所蔵する、絵画、写真、映像、立体など約120作品で、英国美術の動向を紹介する。1990年代に一世を風靡したYBA(ヤング・ブリティッシュ・アート)世代のギャリー・ヒューム、サラ・ルーカス、ジェイク・アンド・ディノス・チャップマンら、ターナー賞を受賞したマーティン・クリード、グレイソン・ペリー、サイモン・スターリングなど、28作家・計30名のアーティストが出品。関西初紹介の作家も数多く含まれるということで、1990年代以降の英国現代美術を知る絶好の機会となりそうだ。

2014/03/20(木)(小吹隆文)