artscapeレビュー

アーヴィング・ペン「Cigarettes」

2014年04月15日号

会期:2014/03/20~2014/04/19

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

アーヴィング・ペンの多彩な作品群のなかでも、「Cigarettes(煙草)」のシリーズは最も好きなもののひとつだ。ペン以外の誰が、地面に落ちている煙草の吸い殻を被写体にすることを思いつくことができただろうか。そこにはペンの写真家としての鋭敏な感受性と、どんな些細な物でも彼のエレガントな作品世界の中で輝かせてみせるという、揺るぎない自信が表われている。
ペンがこのシリーズを最初に発表したのは1975年で、その展覧会を見て衝撃を受けたロンドンのハミルトンズ・ギャラリーのディレクター、ティム・ジェフリーズは、いつの日かそのすべてを展示したいと考えた。それがようやく実現したのは2012年で、今回のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムの個展では、そのうち16点が展示されている。このシリーズを、これだけまとまった形で見ることができるのは、おそらく日本では初めてのことだろう。
煙草の吸い殻そのものの繊細かつ微妙な質感、その奇妙に心そそられるフォルムも魅力的だが、ペンがこのシリーズでプラチナム・パラディウム・プリント(プラチナ・プリント)を初めて用いたというのも重要な意味を持つ。本作が19世紀に流行したこの古典技法を、現代写真において復活させる大きなきっかけになったからだ。あらためて展示された作品を見ると、彼がなぜプラチナ・プリントに目をつけたのかがわかるような気がした。そのセピア調の色味、中間部の柔らかで豊かなトーンは、まさにクローズアップされた煙草の吸い殻にふさわしいからだ。逆にいえば、プラチナ・プリントは普通のポートレートや風景にはあまり向いていないのかもしれない。ペンのこの作品以後、プラチナ・プリントをいろいろな被写体の写真に使うことが多くなったが、もう一度その適性を吟味してみるべきではないだろうか。

写真:アーヴィング・ペン《Cigarette No. 50》New York, 1972/1975年
プラチナ・パラディウム・プリント
イメージ・サイズ: 59.7 x 45.1 cm
ペーパー・サイズ: 63.5 x 55.9 cm
マウント・サイズ: 66 x 55.9 cm
Copyright © by the Irving Penn Foundation
Courtesy Pace/MacGill Gallery, New York

2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)

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