artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
吉田和生「TB」
会期:2013/08/30~2013/09/23
吉田和生は1982年、兵庫県生まれ。2004年に滋賀県立大学人間文化学部卒業後、グループ展などを積極的に組織し、「群馬青年ビエンナーレ2012」では大賞を受賞するなど、意欲的な活動を展開してきたのだが、やや意外なことに今回の東京・原宿のhpgrp GALLERY TOKYOでの展示が初個展になるのだという。
彼の仕事は、身の回りの光景や東日本大震災の被災地などを撮影した時代性、社会性がやや強い作品と、より抽象度が大きいデジタル処理による構成的な作品に大別されるが、今回の「TB」展は後者に大きく傾いている。「Sky Scape」「Sheet Scape」など、タイトルに「Scape(風景)」という言葉は入っているが、現実の風景ではなく、画像にノイズを入れたり、スキャニングの過程で紙を動かしたり、インクをはじく透明シートにプリントアウトしてドット状のパターンを作ったりして、とても込み入ったデジタル的な「Scape」を形成していく。そうやって出来上がった画面が、ある種の「自然」の一部を思わせる形状、構造を備えているように見えてくるのが面白い。「Sky Scape」のシリーズは、画面がちょうど2分割されていて、あたかも空、水平線、海のようでもある。これは明らかに、杉本博司のよく知られた作品「Seascapes」への軽やかで的確な批評だろう。
この世代から、写真に対する新たな思考と実践が芽生えてこないかと、以前から期待していたのだが、吉田がその有力なひとりであることが、今回の個展で証明されたのではないかと思う。
2013/09/04(水)(飯沢耕太郎)
アートピクニック vol.3 マイホーム ユアホーム
会期:2013/08/31~2013/10/06
芦屋市立美術博物館[兵庫県]
わが家、住宅、家族、国、故郷など、さまざまな意味を内包する単語「ホーム」をテーマに、8組の作家を紹介した本展。さまざまな職業に扮したコスプレ家族写真で知られる浅田政志、取り壊される建物の記憶を建築部材によるウクレレで継承する伊達伸明など、どの作品もユニークかつ親しみやすいものであった。現代美術作家と美術教育を受けていない作家を同列に展示しているのも本展の特徴で、小幡正雄の段ボール絵画や高知県の沢田マンションの記録が美術家の作品と共演していた。そこには美術か否かよりもいまのわれわれにとって切実なことを優先する姿勢が感じられる。学究的な企画だけでなく、このような等身大の現代美術展も大切にしたい。
2013/08/31(土)(小吹隆文)
アンドレアス・グルスキー展
会期:2013/07/03~2013/09/16
国立新美術館 企画展示室1E[東京都]
国立新美術館のアンドレアス・グルスキー展へ。建築的な視点をもって、世界を切り取る写真である。通常の個展では、各シリーズごとにまとめて作品を紹介するが、あえてばらばらに分解して配置していた。したがって、少しずつ変容していく同じ作家の小さな個展を連続して見るかのよう。おそらくキャプションを排し、番号だけのミニマルな展示を目指したのに、オーディオガイドの番号が付加され、残念だった。
2013/08/31(土)(五十嵐太郎)
牛腸茂雄「見慣れた街の中で」
会期:2013/08/31~2013/09/22
MEM[東京都]
牛腸茂雄の『見慣れた街の中で』(1981)は、彼が遺した3冊の写真集(ほかに『日々』1971、『SELF AND OTHERS』1977)のなかで、最も評価が難しいものかもしれない。『日々』は桑沢デザイン研究所時代以来のスナップショットの修練の賜物というべき写真集だし、『SELF AND OTHERS』の緊密な構成、完成度の高さは、代表作と呼ぶのにふさわしい。だが、『見慣れた街の中で』は当時としては珍しくカラー・ポジフィルム(コダクローム)を使っているのを含めて、どうもおさまりが悪い写真集だ。一見すると、どうということもない街の一角を切り取ったスナップとしか思えないこのシリーズで、牛腸が目指していたものが何だったのか、うまく伝わらないもどかしさを彼自身も感じていたのではないだろうか。
だが、最近になってこの写真集の持つ魅力と可能性が、あらためて見えてきたような気がしてならない。いわゆる「ニューカラー」の先駆ということだけではなく、牛腸は確信的に曖昧な街の雑踏を切り取ることで、彼にしか見えない「もう一つの現実」を浮かび上がらせるという力業を試みようとしていたのだ。それだけでなく、どこかふわふわと宙を漂うような写真群を見ていると、2年後に亡くなる牛腸が、すでに死の予感を覚えつつ撮影を続けていたように思えてならない。時折、「見慣れた街」がこの世ならぬ眺めに見えてきて、震撼させられることがある。
今回のMEMの展示では、ポジフィルムをスキャニングして再プリントすることで、これまでとは見違えるほどのクリアーな画面を実現することができた。光と闇のコントラストがより強まるとともに、コダクローム特有の赤や黄色の発色も鮮やかになってきている。そのことによって、牛腸の言う「人間存在の不可解な影のよぎり」が、逆にくっきりと見えてきたのではないだろうか。
なお、本展は牛腸茂雄の没後30年記念企画の一環として開催されたものであり、9月24日~10月14日には彼の子どもを被写体とした写真群を集成した「こども」展が同じ会場で開催される。また新編集の写真集『見慣れた街の中で』(山羊舍)と『こども』(白水社)も同時に発売される。新装版の『見慣れた街の中で』には、個展では発表されたが前の写真集には未収録の作品、27点もおさめられている。牛腸の仕事の広がりをあらためて確認するいい機会になるはずだ。
2013/08/31(土)(飯沢耕太郎)
セドリック・デルソー『ダーク・レンズ』
発行日:2013/9/13(金)
セドリック・デルソーの写真集『ダーク・レンズ』(エクスナレッジ)が興味深い。画像を加工し、映画『スターウォーズ』の世界が現実の都市に移植されている。ほとんどがドバイ、それとパリやリールが舞台だ(リカルド・ボフィルのSF的なポストモダン建築も登場)。ダースベイダーやファルコン号が、実際の風景に紛れてもあまり違和感を覚えないのは、もうわれわれが未来を生きているからなのだろうか。
2013/08/27(火)(五十嵐太郎)