artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

村上友重「この果ての透明な場所」

会期:2013/08/20~2013/09/20

G/P GALLERY[東京都]

村上友重は2004年に個展「球体の紡ぐ線」(新宿ニコンサロン、第6回三木淳賞受賞)でデビューして以来、一貫して風景をテーマにした作品を発表してきた。本人から見ると、いろいろな紆余曲折はあったのかもしれないが、傍目で見ると順調にキャリアを積み上げ、その作品世界も広く、深くなってきているように思える。今回はオランダの写真雑誌『Foam Magazine』が公募した「Foam Talent」賞に選出された新作の展示だった。
写真を通じて「不可知なことに近づいていくこと、または近づいてみたいと願うこと」を目指すという彼女にとって、霧に包まれた眺めという今回のテーマは必然的なものだったと言えるかもしれない。会場には1,200×1,000ミリの大判サイズに引き伸ばしたプリントが7点並ぶが、それらはすべて半ば白い霧に閉ざされた風景を撮影したものだ。霧の中から、火口らしきもの、建物らしきもの、草原らしきものの姿がぼんやりと浮かび上がってくる。見えそうでよく見えないそのたたずまいは、カメラを構えて、手探りで世界の輪郭、手触りを確認していこうという写真家の営みを暗示しているようでもある。おそらく、その霧の中に包み込まれた不透明な状態も過渡的なものであり、やがては晴れ渡ったクリアーな眺め、「この果ての透明な場所」が目の前に開けてくるのだろう。今回の個展のタイトルは、その願望を込めた名づけであるようにも思える。

2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)

プレビュー:奈良・町家の芸術祭 HANARART2013

会期:2013/09/07~2013/11/26

会場:五條新町(9/7~16)、御所市名柄(9/14~16、一部作品は9/7~16)、八木札の辻(9/20~29)、今井町(9/27~10/6)、郡山城下町(10/12~20)、宇陀松山(10/20~27)、奈良きたまち(11/1~10)、桜井本町(11/16~26)[奈良県]

奈良県内に数多く残る伝統的な家並みや町家と斬新なアート作品を組み合わせる、まちづくり型現代アートイベント。今年も県内8カ所を会場に少しずつ時期をずらして開催されるが、その内容は昨年とは大きく異なる。まず、キュレーターを公募する企画展「HANARARTこあ」は、郡山城下町1カ所での開催となり、奥中章人、サラスヴァティ、銅金裕司の3組が選出された。ちなみに「こあ」の審査を行なったのは、中井康之(国立国際美術館主任研究員)である。次に、アーティストが自主的に参加し展覧会やイベントを行なう「HANARARTもあ」。こちらは昨年と同様だ。そして3つ目が、アーティストが会場に長期間滞在して制作と展示を行なう「HANARARTえあ」で、国内作家はもちろん、フランス、台湾、タイの作家も参加している。「HANARART」は日程と会場が分散しているため、すべてを見届けるのは難しい。その代わり、どのエリアに出かけてもアートと地域の魅力を体感するだろう。ちなみに筆者自身が注目しているのは、やはり郡山城下町である。

2013/08/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:映画をめぐる美術─マルセル・ブロータースから始める

会期:2013/09/07~2013/10/27

京都国立近代美術館[京都府]

詩人として出発し、後に言語とイメージの関係を問う幅広い創作活動を行なったベルギー出身の芸術家マルセル・ブロータース(1924~1976)。本展では、彼と後進の作家たちの作品を通して、映画をめぐる美術家の多様な実践を紹介する。出品作家は、ブロータース、アンリ・サラ、シンディ・シャーマン、田中功起、アナ・トーフ、やなぎみわ、ミン・ウォンなど12名。彼ら彼女らの、フィルム、写真、ビデオ、インスタレーション作品が、「Still/Moving」「音声と字幕」「映画のある場」など5つのテーマに基づいて展示される。

2013/08/20(火)(小吹隆文)

田口順一『音楽』

発行所:冬青社

発行日:2013年7月10日

高橋国博が主宰して、東京・中野でギャラリーと出版の活動を続ける冬青社からは、時折ユニークな写真集が刊行される。田口順一の『音楽』と題する写真集もそんな一冊だ。
田口は1931年、新潟県生まれだから、東松照明や奈良原一高など、VIVOの写真家たちと同世代にあたる。日本大学芸術学部音楽学科の作曲コースを卒業後、ずっと千葉県の高等学校で教鞭をとりながら現代音楽の作曲家として活動してきた。千葉県立幕張西高等学校の校長を退任後は、武蔵野音楽大学大学院の教授も務めている。その彼は、船橋写真連盟に属して写真家としても作品を発表してきた。「50年間音楽と関わり作曲活動を続けて来ましたが、その活動の足跡と共に、『今の私のあり様』をまとめて」みたのが、今回の写真集ということになる。
ページを開くと、五線譜、ト音記号、自作の曲の楽譜のコピーなどの間に、おそらく身近な場面で撮影したとおぼしき写真が並ぶ。壁、地面、コンクリートの塀などをクローズアップで撮影したそれらの写真群は、周囲の環境からは切り離されて、色彩と物質感のみの表層的なイメージとして抽象化されている。それらのたたずまいは、たしかに視覚的な「音楽」としか言いようのないものであり、田口がそこから確実に何かを聴きとっていることが伝わってくる。ありそうであまりない試みであり、実際に曲を流して、スライドショーのような形で見せても面白いかもしれないと思った。

2013/08/15(木)(飯沢耕太郎)

第29回東川賞受賞作家作品展

会期:2013/08/10~2013/09/04

東川町文化ギャラリー[北海道]

1985年に北海道上川郡東川町でスタートした東川町国際写真フェスティバル(東川町フォトフェスタ)も、今年で29回目を迎えた。「写真の街」を宣言し、高校生の写真部員が集う「写真甲子園」も20回目になるなど、夏の北の大地を彩る恒例行事として完全に定着している。ほかにもポートフォリオレビュー、トーク、スライドショーなどの多彩な行事が繰り広げられた。
東川町文化ギャラリーでは、本年度も東川賞受賞者による作品展が開催された。海外作家賞は、多民族国家の社会状況を軽やかに指し示す連作を発表するマレーシアの女性写真家、ミンストレル・キュイク・チン・チェー。ほかに国内作家賞の川内倫子、新人作家賞の初沢亜利、北海道をテーマにした作品に与えられる特別作家賞の中藤毅彦、長年写真界に貢献した写真家に与えられる飛騨野数右衛門賞の山田實の作品が展示された。いつものように、まったく作風も経歴も違う写真家たちの作品の展示だが、不思議とバランスがとれているように感じるのが興味深い。また、1950年代から沖縄の庶民の暮らしを記録し続けてきた山田實のような、あまりじっくり見る機会のない写真家の代表作が並んでいるのも嬉しい。晴れがましい賞にはそれほど縁がなさそうな写真家たち(今回で言えば初沢亜利や中藤毅彦がそうだ)にきちんと目配りしているのが東川賞の特徴であり、彼らの作品を受賞作家作品展で見るだけでも、わざわざこの街まで足を運ぶ価値があるのではないだろうか。
僕自身は「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション2013」の審査員を務めた。同オーディションの審査も今年で3回目になるが、毎回力作が寄せられる。今年グランプリをダブル受賞した青木陽、堀井ヒロツグの作品のレベルの高さは、特筆に値するものだった。
8月10日の夜は、ビールを手にジンギスカンに舌鼓を打ちながら、受賞者、ゲスト、ボランティア、観客などが一堂に会する「ミーティングプレイス」で大いに盛り上がった。フォトフェスタは、多くの写真関係者の出会いと交流の場としても大事な役割を果たしている。

2013/08/10(土)(飯沢耕太郎)