artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:ノモトヒロヒト写真展 LIFE

会期:2012/02/03~2012/02/25

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

大阪在住の写真家ノモトヒロヒトが、東日本大震災の津波の被災地を取材した2つの新作シリーズを発表する。ひとつは《Facade》で、被災地の建物を真正面から客観的に撮影したもの。もうひとつは《Debris》で、被災地で大量に発生し、素材ごとに分類された瓦礫を撮影し、コンピューター上で繋ぎ合わせたものだ。両シリーズに共通するのは、事象から距離を置き、冷静な観察者に徹した写真家の視線である。震災で失われた人間の営み=LIFEが永遠に記憶されるべきものであることを、ノモトの新作は示している。

2012/01/20(金)(小吹隆文)

HOWARD WEITZMAN PHOTO EXHIBITION

会期:2012/01/18~2012/01/31

銀座ニコンサロン[東京都]

東京在住のハワード・ワイツマンの写真展。渋谷を行き交う人びとを写したモノクロのポートレイト50点あまりを発表した。ほとんどの写真は、いわゆるギャルの奇形的な風貌をとらえており、それらをていねいに見ていくと、写真家の視線が立体的に造形化された髪型や人工的に倍増されたまつ毛に注がれていることがよくわかる。彼女たちはいずれも無表情であり、それゆえ顔面の筋肉が一様に下がっているにもかかわらず、まつ毛はどこまでも上昇するかのような異常な生命力を誇っているところに、現在の都市文化の矛盾が如実に表わされているような気がした。すなわち、自然としての身体に生命力が乏しい反面、人工的な身体に瑞々しい生命力があふれているというねじれ。もしかしたら現在の都市生活者はすでに死んでいるのではないか。そんな想像を繰り広げたくなる写真である。

2012/01/19(木)(福住廉)

鬼海弘雄 写真展 PERSONA 東京ポートレイト、インディア、アナトリア

会期:2011/12/15~2012/01/29

山形美術館[山形県]

鬼海弘雄は2011年8月に東京都写真美術館で、浅草・浅草寺の境内で撮影し続けている人物写真と、東京周辺の街々を歩き回りながら撮影した6×6判の風景のシリーズをあわせて「東京ポートレイト」展を開催した。今回の山形美術館での展示はその拡大版と言うべきもので、その「東京ポートレイト」の作品群に加えて、「インディア」と「アナトリア」のシリーズをあわせて見ることができた。
この35ミリカメラによるスナップショットの2つのシリーズも息の長い仕事だ。インド各地を撮影した「インディア」は1980年代から、トルコの黒海沿岸の村々を中心に撮影した「アナトリア」は1990年代から、何度も現地に足を運んで続けられている。「東京ポートレイト」の2作品が、かなり厳密に方法論を定めて撮影しているのと比較すると、こちらは被写体との出会いの偶然性に依拠しながら、人々のさまざまな表情や身振りを、柔らかな、だが精確な眼差しで捉えた写真が並ぶ。むろん、どちらも鬼海弘雄の写真家としての姿勢をよく示すものであり、両者があわさって、はじめて彼の作品世界の広がりを見通すことができるとも言えるだろう。その意味では、文字通りの代表作を集成した回顧展と言うべき展示が、彼の故郷である山形県寒河江市に近い山形市の美術館で実現したのはとても素晴らしいことと言える。
少し残念だったのは、予算の関係もあってか、今回の「PERSONA 東京ポートレイト、インディア、アナトリア」展の出品作をすべて収録したカタログをつくることができなかったこと。いつか、ぜひ実現してほしいものだ。

2012/01/16(月)(飯沢耕太郎)

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ERIC『LOOK AT THIS PEOPLE』

発行所:赤々舎

発行日:2011年12月1日

香港出身で日本在住の写真家、ERICの新作写真集。ERICはこれまでずっとストリート・スナップ一筋に撮影し続けており、今回のシリーズもその延長線上にある。ただ前作の『中国好運』(赤々舎、2008)などと比較すると、同じく白昼の至近距離からの人物スナップでも、なんとなく印象が違ってきているように感じる。今回、彼が撮影したのは中国雲南省で、山岳民族の姿が目立ち、「水かけ祭」や「泥塗り祭」などの珍しい行事が残っている地域だ。中国人の彼にとってもエキゾチックな場所と言えるだろう。被写体との距離感のとり方にやや戸惑いを感じている様子がうかがえる。それだけでなく、以前のぎらつくような挑戦的なパワーがあまり感じられない。それは別にマイナスではなく、むしろ彼のスナップシューターとしての能力が、さまざまな被写体に自在に対応できる段階にまで達していることを示しているのではないだろうか。いかにも穏やかな、ゆったりとした生き方を感じさせる雲南の住人たちに、ERICも柔らかな眼差しで応えているように感じた。
本書の刊行記念ということでAKAAKAの2階で開催された先行販売イベントでは、ERICが2011年秋に撮影したタイの洪水のスナップ写真も見ることができた。こちらも実に面白い。タイの人々が、あたかも洪水を心から楽しんでいるような、笑顔のあふれる表情で写っている。発泡スチロール製のボート(?)が行き交い、主婦が腰まで水につかって買い物に行くような非日常的な街の様子と、彼らの屈託のない、祝祭的な雰囲気のアンバランスさがなんともシュールだ。ぜひ、写真集や写真展のかたちで公開してほしい。

2012/01/14(土)(飯沢耕太郎)

LOST & FOUND

会期:2012/01/11~2012/02/11

AKAAKA[東京都]

宮城県亘理郡山元町は東日本大震災の大津波で大きな被害を受けた地域である。町の面積の50%が浸水し、死者・行方不明者あわせて600人以上に達した。震災直後から、ボランティアが拾い集めた写真を洗浄し、カメラで複写することによって元の持ち主に返すという「思い出サルベージアルバム」プロジェクトがスタートする。現在まで、アルバム約1,100冊、写真約19,200枚が、持ち主の手に戻ったという。今回の展示はそのプロジェクトにかかわってきた写真家の高橋宗正を中心に企画されたもので、ほとんど画像が消えかけたサービスサイズのプリント約1,500枚と、被災者の方たちから借りてきたという結婚式の記念写真などが展示されていた。
このような写真の洗浄・修復のプロジェクトには強い関心があった。今回の震災によって、記憶を保存し、再生する器としての写真の役割があらためて大きくクローズアップされたからだ。だが一方で、プリントをきれいにデータ化したり、修復したりすることについてはやや疑問もあった。写真を流された人たちにとって、それはむろんとても大事なことだが、泥や砂をかぶったままの写真そのものもきちんと残しておいてほしいと思っていたからだ。それらは未曾有の震災の「小さな記念碑」の役割を果たしつづけるはずだ。その意味で、今回の「LOST & FOUND」展は時宜を得た好企画だと思う。
壁に小さな透明の袋に入れられてびっしりと並んでいるプリントを見ていると、その表面のダメージが一つひとつ微妙に異なっていることに気がつく、画面の大部分が残っているものは稀で、多くは画像がほとんど消えて真白の印画紙に戻りかけている。その空白、さまざまな色や形の染み、そして消えかけている人物や光景のたたずまいが、奇妙に「美しく」感じられる。あえてひんしゅくを買いかねない言い方をすれば、津波は恐るべきアーティストでもあったということだろう。展覧会のチラシに「この写真展で展示されるのは誰かの作品ではありません」とあった。これはむろん、写真の撮り手が無名の町民であり、著名な写真家の「作品」などではないかという意味だが、穿った見方をすればこれらは「津波の作品」とも言えるのではないだろうか。あまりお近づきにはなりたくない、強烈過ぎる個性のアーティストではあるが、その破壊力は逆説的に生産力でもあるということが、くっきりと見えてきたように感じた。
なお「LOST & FOUND」展は、これ以降、ロサンゼルスやパリでも開催する予定があるという。海外の観客がどのような反応を示すのかが興味深い。

2012/01/14(土)(飯沢耕太郎)