artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
ロトチェンコ+ステパーノワ─ロシア構成主義のまなざし

会期:2010/07/03~2010/08/29
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
ロシア構成主義の巨匠ロトチェンコは知っていたが、彼の妻ステパーノワも優秀な作家だったとは、恥ずかしながら知らなかった。2人の代表作が見られた本展は、絵画、立体、舞台美術、書籍、ポスター、プロダクト、建築、写真など170点が並び、質・量ともに大いに充実。良い意味で予想を裏切ってくれた。作品はロシアのプーシキン美術館及び遺族の所蔵品で、前者もほとんどが遺族から寄贈されたものだ。前衛美術はソビエト時代に弾圧されたはずだが、遺族はどうやって作品を守ってきたのだろう。公にしなければ当局も黙認してくれたのか、それともレジスタンス的に密かに守り続けたのか。ロシアから来日した学芸員に質問したのだが、こちらの真意がうまく伝わらなかったのが残念だ。
2010/07/02(金)(小吹隆文)
仲山姉妹「菊ヲエラブ」

会期:2010/06/28~2010/07/15
ガーディアン・ガーデン[東京都]
「仲山姉妹」といっても実体はひとり。1984年生まれで2009年に武蔵野美術大学油絵学科を卒業し、リクルートが主催する「1_WALL」(「写真ひとつぼ展」を改称)でグランプリを受賞した。本展はその1年後の新作発表である。グランプリ受賞作の「化石」は、病気療養中の祖父の「記憶や感情の化石を掘り起こす」という、オブジェを使ったユニークなパフォーマンスを撮影したポートレートだった。だが、彼女の基本的なスタイルは北海道のじゃがいも農場、宮崎県の切り干し大根工場、そして今回の鹿児島県沖永良部島のスプレー菊の栽培農家のような、普通はあまり思いつかないような職場で実際に働き、その経験を素材として熟成させていく写真・映像作品である。日常的な場面の積み重ねではあるが、その切り取りの角度が独特で、語り口ものびのびとしていて気持ちがいい。たとえば人工栽培の菊はとてもひ弱で、針金の支えがないと根元からポッキリ折れてしまうのだという。「人間でいうと箱入り娘なんだろう。……こんな女子がいたら厄介だと思うけど、それって実は私だったりして。いま気づいたよ」(リーフレットより)。このように実体験から得られた認識をしっかりと育てあげ、写真や映像で表現していく姿勢がきちんとしていて揺るぎがないことに好感が持てる。むろんまだそのスタイルがしっかり固まっているわけではないが、何かをやってくれそうな大物感が漂っている。
2010/07/01(木)(飯沢耕太郎)
パラモデルの 世界はプラモデル

会期:2010/06/26~2010/08/01
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
パラモデルといえば玩具のプラレールを用いた無限増殖的なインスタレーションが思い浮かぶ。しかし、彼らは絵画、写真、映像、立体の小品など、さまざまなジャンルの作品を発表している。本展はそんな彼らのバリエーションを網羅的に示した点に意義がある。もちろんインスタレーションも実施されており、プラレールのほかパイプを用いた大作も見られた。ただ、彼ら自身が直接作業をする中小企業的な制作スタイルは、規模的にそろそろ限界ではないか。これ以上になるとゼネコンよろしく下請けを使いこなす方向に移行せざるをえないかもしれない。その意味でも、本展はパラモデルの重要な折り返し点と位置付けられる可能性がある。
2010/07/01(木)(小吹隆文)
加藤大季/秦雅則「性の話」

会期:2010/06/22~2010/06/27
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
いま、とにかく面白い展覧会を続けて開催しているのは、新宿・四谷の企画ギャラリー・明るい部屋だと思う。その推進力になっているのは、メンバーのひとりである秦雅則の「企画力」なのではないだろうか。加藤大季との二人展「性の話」を見ながらそう思った。自分の個展に加えて、他の写真家たちとのコラボレーション点を積極的に組むことで、ギャラリーの活動を活気づけることに成功している。
今回の加藤との二人展は「ちょっぴり卑猥な勃起時等身大(虚像?)写真展」ということで、性風俗店でバイトをしているという加藤の「肉食系」のキャラと、やや控えめにそれを受けて立つ秦のスタイルがうまく噛み合って、なかなか見応えのある展示になっていた。中心になっているのは鞭やバイブレーターなど、性の用具のクローズアップ写真と、大量に壁に貼られた性行為のスナップ写真群(加藤撮影)なのだが、その上部に何とものほほんとした秦撮影のポラロイド写真とラフな造りのブックが置かれることで、ともすれば生々しい方向に傾きがちな「性の話」を、あまりエスカレートさせることなくうまくやわらげている。秦雅則の語り口のうまさによって、加藤の「 み」が強いストレートな写真の魅力が、いきいきと発揮されているようにも感じた。予定では活動期間はあと半年あまりだが、これからも「企画力」を活かしてのびのびとした展示を見せていってほしいものだ。
2010/06/25(金)(飯沢耕太郎)
村越としや/山方伸「ながめる まなざす Division-2」

会期:2010/06/04~2010/06/22
アップフィールドギャラリー[東京都]
雅博の企画で「風景と写真を巡る今日的状況」を問い直すという連続展。第1期は相馬泰、西山功一、横澤進一、吉村朗、第2期は村越としや、山方伸、第3期は荒木一真、南條敏之、箱山直子、 雅博が参加している。そのうち第2期の村越と山方の展示を見ることができた。
「地方」の農村地帯(山方は奈良県南部、村越は福島県が中心)を撮影しているということ以外は、二人の風景への取組みにはあまり共通項はない。山方は山村の建物や道や畑などがモザイク状に寄せ集められた眺めに執着し、村越は均質な湿り気のある光と空気の層で風景の全体を塗り込めていく。分析的で客観的な観察を基本とする山方に対して、村越の方は風景に自らの思いを解き放ち、そこに溶け込んでいこうとしているようだ。どちらがいい、悪いというのではなく、このような対照的なアプローチが隣り合って並んでいるところに、風景写真の「今日的状況」を見ることもできそうだ。
サードディストリクトギャラリーのストリート・スナップの連続展もそうなのだが、このところ写真という表現手段そのものの成り立ちを問い直す試みが目立ってきている。ただ、この「ながめる まなざす」展でも、どうも内向きにそのジャンルにおける完成度を競い合うというようなところがないわけではない。日本の写真家たちがこれまで積み上げてきた表現の質を保ちつつ、もっと外部に向けて開いていく工夫も必要ではないだろうか。
2010/06/20(日)(飯沢耕太郎)


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