artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
梅佳代 写真展「ウメップ」シャッターチャンス祭りinうめかよひるず

会期:2010/08/07~2010/08/22
表参道ヒルズ スペース オー[東京都]
写真家・梅佳代の個展。写真集『ウメップ』に収録された写真を中心に、数百枚にも及ぶ大量の写真を空間全体を散りばめ、「表参道ヒルズ」のなかに見事な「うめかよひるず」を出現させた。ミラクルの瞬間を目ざとくとらえる眼力は依然として変わらないが、今回の展覧会で新たに発表された映像を見ると、むしろその瞬間を梅佳代自身が招き寄せているのではないかとすら思えてくる。同じ時代を生きていることに喜びを感じるアーティストは少ないが、梅佳代はまちがいなくそのひとりである。
2010/08/12(木)(福住廉)
hanayo「colpoesne」

会期:2010/08/06~2010/08/15
UTRECHT/NOW IDeA[東京都]
そういえばhanayo(花代)のデビュー写真集が『うめめ』ならぬ『ハナヨメ』(新潮社, 1996)だったことを思い出した。梅佳代もそうだったのだが、hanayoの「女の子写真」をさらに崩し字で書いたような「ボケボケ」のスタイルも、当時は写真界の評価は最悪だった。その後、ドイツに渡り、ドイツ人と結婚して女の子を産みといった経歴を積み重ねるなかで、イラストや音楽も含むマルチアーティストぶりには磨きがかかり、現在ではベルリンと東京を往復してコンスタントに作品を発表するようになっている。
今回はUtrechtから刊行された写真集『colpoesne』にあわせた展示。写真集はモノクロ・ページとカラー・ページが交互に並ぶ構成で、アンカット(フランス装)の造本になっており、ペーパーナイフでページを切り取りながら写真を見る仕掛けが施されている(装丁はRupert Smyth)。その凝った造りは写真の内容にも即していて、モノクロのページはかっちりと構造的に組み上げられた写真、カラーのページはどちらかといえばゆるい開放的な写真を中心に構成される。タイトルが謎めいていて、最初は意味がわからなかったのだが、表紙の文字を見ているうちに謎が解けた。「close」と「open」という言葉の綴りが交互に並んでいるのだ。ということは、モノクロ部分は「close」に、カラー部分は「open」に対応しているということなのだろうか。
このような複雑なコンセプトをきちんと形にできるというのは、かつてのhanayoの作品を知る者から見ると驚きとしかいいようがない。アーティストとしての成長の跡が作品にきちんと刻みつけられているということだろう。なお、展示もかなり複雑なインスタレーションで、部屋の中央に壁で囲まれた仮設の小屋のようなものがあり、その中は真っ暗で、床にちらばった写真をヘッドランプで照らして見るようになっている。小屋のまわりには、モノクロームの室内の写真が、やはり無造作にちらばっていた。イノセントな眼差しはそのままだが、表現力が格段に違ってきているのがよくわかった。
2010/08/11(水)(飯沢耕太郎)
梅佳代「ウメップ」

会期:2010/08/07~2010/08/22
表参道ヒルズ スペース オー[東京都]
梅佳代の5冊目の写真集『ウメップ』(リトルモア)の刊行にあわせた「シャッターチャンス祭りin うめかよひるず」。夏休み中ということもあって、家族連れ、若い観客で大賑わいだった。ポピュラリティという点からいえば、彼女の存在感は若手写真家たちの中でも際立っているといえるだろう。
等身大の切り抜き写真が乱立し、「毎日撮った写真の壁」(会期中にもどんどん増えていく)、「TVの部屋」(ビデオ作品の上映)、記念写真のコーナーなどもあって、会場全体の雰囲気が村の夏祭りと化していた。作品の内容からいえば、デビュー作の第32回木村伊兵衛写真賞受賞作『うめめ』(リトルモア, 2006)の延長上で、まったく新味はない。ただ、笑いのツボをピンポイントでヒットする確率はより上がっている。
梅佳代のようなやり方を、携帯電話の写真の時代にふさわしいスナップの現在形として評価するか、俗悪な退化として否定するのかというのは微妙な分かれ道だろう。僕はどちらも不毛のような気がする。このような写真を撮り─撮られることの歓び、できあがった写真を前にして、いろいろ言い合って反応を愉しむようなあり方は、写真が発明されてからずっと続いてきた伝統的な行為ともいえる。梅佳代の写真の「語り部」としての能力は群を抜いており、まだしばらくは「シャッターチャンス祭り」を盛り上げていけそうだ。
2010/08/11(水)(飯沢耕太郎)
カルロス・フラド写真展 Waves of Silence

会期:2010/07/24~2010/08/22
TANTO TEMPO[兵庫県]
メキシコ出身で現在は日本で活動する写真家の個展。主に明け方の海岸を長時間露光で撮影した作品は、鏡面のように固まった海の表情もあって、完全な静寂が支配する超自然的世界を描き出す。本展では雪山の情景など今まで見たことがないモチーフにも挑戦しており、作風の更なる広がりが感じられた。
2010/08/07(土)(小吹隆文)
瀧浦秀雄「東京物産」

会期:2010/07/31~2010/08/10
コニカミノルタプラザ ギャラリーC[東京都]
10年あまりの時間をかけて、東京23区内を隈なく歩きまわり、目についた「物」を6×6判の二眼レフカメラで丁寧に採集していく。東京で見つけた「物」だから「東京物産」というわけで、2007年に発表された人物スナップのシリーズ「東京体」と対になる作品である。なお、既に写真集『東京体』(ギャラリーバルコ)が刊行されており、今回の展示にあわせて刊行された写真集『東京物産』(同)とともに、ダンボールのケースに2冊組でおさめられるように造本されている。写真撮影、プリントのプロセスと同様に、本作りにおいても瀧浦の仕事は実に丁寧で用意周到だ。
さて、今回のシリーズに関していえば、赤瀬川原平らの「トマソン」=路上観察学の成果とどこが違っているのかということになる。基本的には両者にそれほどの違いはないのだが、瀧浦の作業の方が方法論的に厳密で、その採集の基準がクリアーであるといえるかもしれない。展示されている写真のクオリティが見事にそろっていて、まったく揺るぎがないのだ。おそらく膨大な量の写真が切り捨てられているのだろうが、そのことによってある時代区分における「東京物産」のスタンダードが、きちんと確立しているように見える。
やや個人的な感想ではあるが、瀧浦の写真を見ていると「きのこ狩り」によく似ているのではないかと思った。「きのこ狩り」も経験を積んで「きのこ目」ができてこないと、なかなか大物は見つからない。カメラを手にした禁欲的な歩行の積み重ねによって、普通の人なら何気なく見過ごしてしまう光景の中から「東京物産」がすっと浮かび上がって見えてくるのだろう。そういえば、ある特定の「物」が増殖して、そこら中に生え広がっているような写真がけっこうたくさんある。そのあたりも、どこかきのこに似ているようだ。
2010/08/05(木)(飯沢耕太郎)


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