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artscapeレビュー

あざみ野フォト・アニュアル 新井卓 Bright was the Morning──ある明るい朝に

2017年03月15日号

会期:2017/01/28~2017/02/26

横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1[神奈川県]

昨年は石川竜一の展覧会を開催した「あざみ野フォト・アニュアル」の一環として、今年は新井卓の「ある明るい朝に」展が開催された。さほど広くない会場だが、充実した内容の展示であり、なによりも意欲的な新作をしっかりとフォローしているのがいい。長く続けてほしいイベントの企画である。
新井は2016年に第41回木村伊兵衛写真賞を受賞して、一躍名前を知られるようになったが、それ以前から世界最初の実用的な写真技法であるダゲレオタイプによる作品制作に取り組んできた。ダゲレオタイプは数10秒~数分の露光時間が必要で、1回の撮影でネガとポジが一体化した複製不可能の1枚の画像しかつくることができない。新井は原爆が投下された広島、東日本大震災の被災地となった福島、東京・江東区夢の島の記念館に展示されている第五福竜丸などに、そのレンズを向けている。あえてダゲレオタイプで画像化することによって、過ぎ去り、忘れられていく出来事を、「マイクロ・モニュメント」として定着しようとする彼の試みは、見る者の心を強くを揺さぶるインスタレーションとして成立していた。ダゲレオタイプは、表面が鏡のように輝いているので、ある角度から目を凝らさないと画像がはっきりと見えない。その特性を逆手にとって、観客が近づくと照明が点灯するようにした仕掛けも、効果的に作用していたと思う。
今回、特に印象的だったのは新作の「明日の歴史」(2016~)である。広島と福島の14~17歳の少年・少女にカメラを向け、彼らへのインタビューとともにダゲレオタイプのポートレートを展示している。「顔の形や体の形」を、できるかぎりシャープに捉えるために、このシリーズの撮影では大光量のストロボをたくさん使って、一瞬の閃光で彼らの姿を浮かび上がらせるようにしたという。さらに東京、沖縄での撮影も予定されているということで、さらに厚みと強度を備えたシリーズとなっていくのではないだろうか。
2014年に制作されたB25爆撃機からカボチャを投下するというシニカルな映像作品《49パンプキンズ》も面白かった。写真・映像作家としての新井の、表現者としての大きな可能性の一端を垣間見ることができた。

2017/02/08(水)(飯沢耕太郎)

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