2017年05月15日号
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artscapeレビュー

戦場のモダンダンス「麦と兵隊」より

2017年03月15日号

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会期:2017/02/17~2017/02/19

横浜赤レンガ倉庫1号館2Fスペース[神奈川県]

日本のモダンダンスのパイオニア江口隆哉・宮操子夫妻が、火野葦平原作の「麦と兵隊」を帝国劇場で発表したのは、日中戦争ただなかの1938年のこと。翌年から彼らは「麦と兵隊」の一部を携えて中国、シンガポール、ジャワ島などを従軍慰問する。慰問の旅は42年まで4年間続き、年に1カ月ほど、1日平均2回公演したというから、トータルでおよそ250公演をこなしたことになる。驚くのは動員数で、1回に100~2700人が詰めかけ、年平均5万人、4年間で20万人もの日本兵が見たというのだ。これが大げさでないのは、屋外の舞台を囲むおびただしい数の兵士たちを捉えた写真によって確かめられる。おそらくダンス公演としては空前の動員数だっただろう。それにしても、アジアにどれだけたくさんの日本兵が派遣されていたことか、しかもそのうちの多くが帰らぬ人となったのだから、なにをかいわんや。ともあれ、そのときのダンスを再現してみようというのが今回の公演なのだ。といってもダンスだから現物はないし、動画も残ってないし、出し物もひとつではないので、残された写真や証言から、「きっとこんな感じじゃなかったか」と想像してリコンストラクトしたという。だからぜんぜん違うかもしれないのだ。
で、実際に公演を見て、まさかこんな振り付けじゃなかっただろうというようなダンスだった。登場人物は男女3人ずつ。女性は前半、カーキ色のシャツに軍帽姿で、下半身はブルマの生足。途中で、古賀春江の絵に出てくるモガが着けていたような真っ赤な水着に着替えたりしたが、当時の写真を見ると、水着はともかく生足は見せていたようだ。男性は腰を前後にクイクイ振る動作を頻発するなど、下世話な動きが目立つ。戦地では「芸術的な舞踊」より「安易で朗らか」な踊りを軍から要請されたといい、観客がどっと笑うようなユーモラスなダンスだったらしいが、さすがに「腰クイクイ」はないだろう。男女の絡みも現代的なコントを思わせるし、ブレイクダンスみたいな動きも採り入れてるし、かなり自由に想像/創造している。制作者はおそらく「こんな感じじゃなかったか」というより、「こんな感じだったらおもしろいのに」という希望で再構築したのかもしれない。ともあれ、美術なら戦争画の現物が残されているので研究も進むが、ダンスは残ってないし、宮以外は記録を残そうともしなかったようなので、このような試みがなければ手つかずのまま闇に葬られてしまうそうだ。ま、それだけに想像力の入り込む余地があるともいえるが。

2017/02/18(土)(村田真)

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