平敷兼七「沖縄、愛しき人よ、時よ」:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2018年08月01日号
次回9月3日更新予定

artscapeレビュー

平敷兼七「沖縄、愛しき人よ、時よ」

2017年10月15日号

会期:2017/09/04~2017/10/29

写大ギャラリー[東京都]

平敷兼七(へしき・けんしち)は1948年、沖縄県今帰仁村運天の生まれ。沖縄工業高校デザイン科卒業後、1967年に上京して東京写真大学(現・東京工芸大学)に入学するが、2年で中退する。東京綜合写真専門学校に入り直して、同校を72年に卒業している。その後、沖縄とそこに生きる人々を柔らかな温かみのある眼差しで撮り続けたが、その仕事がようやく評価されるようになるのは、亡くなる2年前、2008年に銀座ニコンサロンで個展「山羊の肺 沖縄1968─2005年」を開催し、第33回伊奈信男賞を受賞してからだった。だが、没後も展覧会や写真集の刊行が相次ぎ、あらためてその独自の作品世界に注目が集まっている。今回の写大ギャラリーの展覧会には、代表作の「山羊の肺」のシリーズから78点、ほかに沖縄出身者が入寮する東京都狛江市の南灯寮での日々をスナップした写真群から63点が展示されていた。
平敷の写真は一見、目の前にある被写体に何気なくカメラを向けた自然体のスナップショットに見える。だが、「山羊の肺」の「『職業婦人』たち」のパートにおさめられた写真の「前借金をいつ返せるか毎日計算する」、「客に灰皿をもって行く子ども」といったキャプションを読むと、彼が沖縄の現実と人々の生の条件を深く考察し、時には辛辣とさえ思える批評的な眼差しでシャッターを切っていることが見えてくる。亡くなる2日前の日記には「人生の結論は身近にあり、身近の人物達、身近の物達、それらを感じることができるかが問題なのだ」という記述があるという。あくまでも「身近」な被写体にこだわり続けながら、「感じる」ことを全身全霊で哲学的な省察にまで昇華させようとした写真家の軌跡を、もう一度きちんと辿り直してみたい。

2017/09/08(金)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00041329.json l 10139907

2017年10月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ