artscapeレビュー

2012年09月15日号のレビュー/プレビュー

Art Court Frontier 2012 #10

会期:2012/07/13~2012/08/11

ART COURT Gallery[大阪府]

アーティスト、キュレーター、コレクター、ジャーナリストなどの美術に関わる人々が推薦者となり、出展作家を1名ずつ推挙してタッグを組む企画のグループ展「Art Court Frontier」は、2003年に始まったアニュアルで今回の開催で10回目。おもに関西で活躍する若手作家を中心に作品を紹介している。今年出展していたのは、アサダワタル、神馬啓佑、國政聡志、桜井類、高田智美、田辺由美子、花岡伸宏、東明、藤部恭代、真坂亮平、marianeの11名。西宮市大谷記念美術館学芸員の池上司氏が推薦する田辺由美子は、食した後に洗浄し、脱脂して真っ白に塗った魚の骨を用いたインスタレーションを発表。無機質なイメージに仕上げられた魚の骨や煮干しの頭部がテーブルやフレームにシンメトリックに構成されていたのだが、一見、骨格標本や組み立て前のプラモデルのようにも見えるそれらは、パーツの形状と白という色のみの構成による抽象的な調和が文様のようにも見えて美しいものだった。時代とともに消失し廃墟と化した妓楼など全国の旧赤線区域を取材し、そこで生きた女性たちの存在を写真や椅子、封筒等のインスタレーションによって表現した高田智美は、毎日新聞記者の手塚さや香氏による推薦。街の景観や人々の記憶から消えかかっている歴史事実をジャーナリスティックな視点で扱っているが、《たくさんの手紙たち──マグダラからマグダラへ》というタイトルがイメージを膨らませる作品。今展ではじめて知る作家もいたのだが、絵画、立体、インスタレーション、彫刻、と表現のジャンルもバラエティに富んだ会場は、他の作品もそれぞれにユニーク。見応えのある内容で全体に楽しめた。


展示風景。奥=高田智美《たくさんの手紙たち──マグダラからマグダラへ》
手前=田辺由美子《afterlife on the table》



田辺由美子《afterlife on the table》
花岡伸宏作品。左=《無題》、中=《入念な押し出し(布)》、右=《海女の集合体は木の丸棒を持ち上げる》

2012/08/10(金)(酒井千穂)

絵のパレード

会期:2012/08/10

石巻商店街[宮城県]

7月にナディッフ・ギャラリーで開催した「一枚の絵の力」展が、宮城県石巻市の日和アートセンターに巡回することになり、いちおう出品作家のひとりであるぼくも便乗させてもらった。昨晩、遠藤一郎のバス「未来へ号」に作品と作家たちを載せて秋葉原を出発、朝方石巻に到着。仮眠後、展覧会のデモンストレーションを兼ねて作家がそれぞれ作品を抱え、街中を練り歩いた。この「絵のパレード」はやはり出品作家の幸田千依さんのアイディア。作品を搬入していたとき絵を持って歩くのがおもしろいと感じて始めたという。なるほど、絵が歩くというのは動産美術であるタブローでしかできない話。しかも大きすぎたら持てないし、小さすぎたら絵が目立たないし、ちょうど胴体が隠れて頭と足が出るくらいの大きさがいい。しかし見せられるほうは、いきなり絵が次々と表われて目の前を通りすぎたり、自分を取り囲んだりするわけだから、かなり戸惑うと思う。商店街といっても被災地だから開いてる店も人通りも少なかったけど、自分の絵をこうやって白昼堂々と人目にさらすというのは必要な経験かも。パレード終了後アートセンターに戻り、みんなで飾りつけ。

2012/08/10(金)(村田真)

あいちトリエンナーレ2013開幕1年前イベント「けんちく体操」ワークショップ

会期:2012/08/10

愛知芸術文化センター 2階大ホール前[愛知県]

あいちトリエンナーレの1年前イベントとして、けんちく体操を行なう。話題になった書籍を通じてよく知っているプログラムで、とうとうドイツのバウハウスにまで呼ばれているが、生で目の前で見るのは初めてだった。ひとりの簡単な模倣から、だんだんと人数が増え、難易度を上げていく。複雑さを増すほど、多様な表現となり、同じ建物で人によって解釈が違うのが興味深い。ラストは10人近い人で、なんと名古屋城。これは壮観だった。

2012/08/10(金)(五十嵐太郎)

森村誠「DAILY HOPE」

会期:2012/07/13~2012/08/12

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

初めて見る森村誠の個展。希望を表わすhopeという言葉のアルファベット、h、o、p、e以外の文字を修正液ですべて塗りつぶした新聞紙が会場の壁面に張り巡らされていた。先に開催された東京での個展を私は見ることができなかったが、そのときは、この作品が床に敷き詰められ、鑑賞者がその上を歩きながら見る展示だったという。今回、森村が発表したこの《Daily Hope》という作品は、震災の影響やイメージが関係すると受け取られがちなのだそうだが、実際にはその制作は震災の数カ月前から始まっており、個人的な出来事の体験から着想を得ているのだという。以前、雑誌や分厚い辞書からt、h、o、m、a、s以外の文字を塗りつぶした《Dear Thomas》というこれに似た森村の作品を見たときに、私はそこに込められたユーモアと皮肉を知ったので、今回もきっとそのようなシニカルな態度が作品に潜んでいるのだろうとは予想していたのだが、詳しくは不明。いずれにしろ、新聞や雑誌というマスメディアを素材に用いたこの作品、一筋縄にはいかないコミュニケーションや言葉の問題を根底に隠しているに違いない。ところで、奈良の会場では、新聞紙を用いた作品が展示された隣の空間で同じシリーズの新作も発表されていた。宇宙開発を特集する科学雑誌にあるh、o、p、e以外の文字を塗りつぶし、コマ撮りした映像インスタレーションと、ドイツ語でHopeを表わす"Hoffnung"の文字以外を塗りつぶした古い星座図の作品。新聞のそれとは異なり、こちらの空間の2つの作品が文字通り「希望」という言葉を想起させるのは、自然の不思議と人間の想像力、人知が出会い、科学技術の進歩に発展するというイメージのせいだろうか。一連の作品でありながら対照的な印象をうける内容で面白かった。


左=展示風景
右=映像作品《Daily Hope〈Amazing Space〉》



ドイツ語で書かれた古い(1860年)星座図を用いた作品《HOPE〈Hoffnung〉》

2012/08/11(土)(酒井千穂)

ルーヴル美術館からのメッセージ:出会い

会期:2012/07/28~2012/09/17

福島県立美術館[福島県]

石巻からの帰りに福島県立美術館を初訪問。ここでは宮城県美術館、岩手県立美術館に続き、ルーヴル美術館が被災3県にコレクションを貸し出す巡回展が開かれている。ルーヴルのコレクションといったって緊急に貸し出しを決めたものだから、そんなたいした作品は来てないだろうとタカをくくっていたが、たしかに作品そのものはあまり知られてない小品が大半を占め、点数も24点と少ないものの、古代エジプトの石像から中世の写本、ルネサンスの彩色皿、17世紀オランダの風俗画、ロココ彫刻までじつに幅広く選ばれている。なにより「出会い」のテーマの下、必ずふたり以上の人物が描かれ、人間の関係性を際立たせた作品を選んでる点が泣かせる。とりわけイタリアの陶製食器には、人物は描かれていないけど握手する手のみが描かれ、人間同士のつながりが強調されている。さすがフランス、シャレた真似を。んが、これだけでは物足りないと感じたのか、巡回3館がそれぞれ数点ずつコレクションをつけ加えている。舟越保武の首像とか、北川民次の戦時中の家族の肖像とか、橋本堅太郎の木彫の女性像とか、各館自慢の作品かもしれないが、ルーヴルの古典的作品に比べて明らかに見劣りがするし、「出会い」というテーマからはずれたものも少なくない。残念ながら蛇足というほかない。

2012/08/11(土)(村田真)

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2012年09月15日号の
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