artscapeレビュー

2012年09月15日号のレビュー/プレビュー

チェルフィッチュ「女優の魂」

会期:2012/08/17~2012/08/19

STスポット横浜[神奈川県]

STスポット横浜にて、チェルフィッチュの「女優の魂」を見る。岡田利規の原作をもとに、佐々木幸子が一人芝居を行なう。役を奪ったと逆恨みされ、殺された女優がティッシュ箱を片手に、演劇論のような内容を語りながら、身体はそれとは関係なく、空間を絶えず泳ぐようにたちまわる。そして終盤、死後の世界において、生前に会ったことがある自殺したアーティスト崩れの青年との会話を演じて、美術界vs演劇界もコミカルに描く。

2012/08/17(金)(五十嵐太郎)

アベンジャーズ

会期:2012/08/14

アイアン・マン見たさに映画『アベンジャーズ』を見る。前半の展開はちょっと退屈だったが、結集したアメコミ・ヒーローたちがドンパチとケンカしたり、にぎやかに暴れだす中盤から、それぞれの持ち味が発揮され、盛り上がる。ただ、物語の流れを変えたのはヒーローではなく、彼らのファンであるコールソンが結構重要な役回りになっていた。

2012/08/17(金)(五十嵐太郎)

ダニエル・マチャド/森山大道「TANGO」

会期:2012/08/18~2012/09/30

TRAUMARIS SPACE[東京都]

面白い組み合わせの写真展だった。ウルグアイ、モンテビデオ出身のダニエル・マチャドはタンゴ・ダンサーがカップルで踊る姿を画面上で増殖させるシリーズと、バンドネオンとダンサーとの脚を対比させて画面に配したシリーズの二作品を展示した。どちらもタンゴの官能性、音楽のうねりとともに変容していく身体のあり方を見事に捉え切っているが、個人的には後者の方が興味深かった。バンドネオンの本体のメカニズムが、そのまま女性の脚の曲線に接続しているあり方が、シュルレアリスティックと言えそうなほど意表をついた美しさなのだ。そういえば、今回のパートナーである森山大道にも網タイツの脚をクローズアップで撮影した作品があった。二人の作品世界が重なりあって見えてくるのがよかったと思う。
その森山は、2005年の写真集『ブエノスアイレス』(講談社)におさめたタンゴのイメージを再演していた。森山の数ある写真集のなかでも、『ブエノスアイレス』はねっとりと絡みつくような夜の空気感、そのエロティシズムを最も色濃く漂わせている。そのなかでも、特に夜の路上で踊る男女のタンゴ・ダンサーの場面は鮮やかに記憶に残っており、それをかなり大きく引き伸ばしたプリントのかたちで見ることができたのが嬉しかった。カラーとモノクローム、演出写真とスナップショットという二人の写真家の対比がうまくきいていて、展示として成功していたと思う。

2012/08/18(土)(飯沢耕太郎)

トータル・リコール

会期:2012/08/10

リメイクされた映画『トータル・リコール』を見る。オリジナルのバーホーベン監督+シュワちゃんの怪演を超えるのは絶対無理という前提だったので、思ったより面白い。しかし、映像技術だけが進化した『トロン』の新作と同様、旧作の当時における衝撃には及ばない。『ブレードランナー』風のオリエンタル都市や未来建築を描く現代の技術は凄いが、これも既存の枠組のなかでの洗練でしかない。また妻との確執がより強調された。

2012/08/18(土)(五十嵐太郎)

レーピン展

会期:2012/08/04~2012/10/08

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

レーピンというのは美術史的にどのように位置づけられているのか、落としどころのわからない画家だ。生まれは1844年だから印象派と同世代(ほんの少し若い)で、パリ留学中に印象派の旗揚げに接し大きな影響を受けたものの、画風はそれ以前のリアリズムに徹していたからモダニズムの文脈からは外れる。また、社会的弱者や革命運動を描く一方で、帝政ロシアの貴族や文化人の肖像画も手がけたというのも一筋縄ではいかないところだ。芸術も社会もイケイケの前衛だったロシア革命時には70歳をすぎていたが、当時はどのように見られていたのだろう。亡くなった1930年は社会主義リアリズムが真っ盛りで模範的画家と見なされていたようだが、ソ連崩壊後どのように評価が変わったのか。彼の生きた19~20世紀のロシアほど大きく変動した社会もないから、自分は変わらなくても時代によって保守的と見られたり革新的と見られたりしたんだろう。まあ彼自身はリアリズム絵画しか描けない職人画家だったのかもしれない。

2012/08/19(日)(村田真)

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