artscapeレビュー
山本耀司『服を作る──モードを超えて』
2013年07月01日号
──ファッションデザイナーは、その瞬間のときめきや、まだ言葉にならないけれど「これからはこうあってほしい」という空気や思いを表現する商売です。フランス語でいうところの「ici et maintenant(イシ・エ・マントゥノン)、つまり「ここで、今」が大切だと思っています。だから過去を振り返ることは嫌いです。僕の作った服が博物館のようなところに入るのも(…中略…)展覧会が開かれるときのこそばゆい感じも、過去を振り返るのが嫌なのも、苦しみながら服を作り続けるのも、言い換えれば、今の僕のほうがもっといい仕事ができるんだぞということを、言い続けたいと思っているからです。[『服を作る』、104-105頁]
1980年代、川久保玲とともに、服の既成概念を覆した独特の表現で世界のファッション業界に衝撃を与えた、山本耀司。当時タブーとされていた「黒」を前面に押し出した彼の服は「黒の衝撃」と称され一大旋風を巻き起こした。以後、賛否両論の評価を受けつつも、山本は世界を代表するファッションデザイナーとなっていった。今年70歳になる彼は、いまもなお「ここで、今。苦しみながらも服を作り続けたい」という。本書は、山本がその生い立ちから現在までを語ったもの。また本の後半には山本への100の質問が加えられている。たとえば、好きな食べ物や映画、ファストファッションへの感想、ファッションデザイナーの未来に至るまで、巨匠のプライベートやファッションへの想いを余すところなく見せてくれる。聞き手は読売新聞社の生活部長として長年ファッションなどを担当している宮智泉。ファッションはもちろん、ひとつの頂点を極めた人間、山本耀司の哲学や世界観を知る貴重な一冊となっている。[金相美]
2013/06/30(日)(SYNK)