artscapeレビュー

立原真理子 展 戸とそと

2013年07月01日号

会期:2013/06/03~2013/06/08

藍画廊[東京都]

会場の天井からいくつものアルミサッシがぶら下がっている。近づいてよく見ると、それらはいずれも網戸だった。さらに目を凝らすと、大小さまざまな網戸の網に色のついた糸を縫いこむことで、風景画を描いていることがわかった。とはいえ支持体である網戸の網自体が背景と融け合うほど見えにくく、しかもそこに縫いこまれた糸の線や色面でさえ明瞭ではないため、結果として非常に茫漠とした絵画になっている。あるいは、網戸というフィルターを通過して初めて立ち現われる風景という点に、室内に視点を定めがちな現代人の視線のありようが暗示されているのかもしれない。
いずれにせよ、大きく言えば、ゼロ年代の絵画に顕著な、はかなく、浮遊感のある性質を共有しているのだろう。けれども、立原による絵画がおもしろいのは、それらを既成の絵画という形式にのっとって表現するのではなく、その形式を含めて表現したからだ。絵画を描くには、内容より前に、形式からつくり変える必要があったのだ。
絵画を見ること、あるいは対象を見ること。この時代にふさわしい絵画は、おそらくこの基本的な身ぶりを根本的に再考することから生まれるに違いない。

2013/06/06(木)(福住廉)

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