artscapeレビュー

2013年07月01日号のレビュー/プレビュー

伊東宣明“芸術家”

会期:2013/05/21~2013/06/02

Antenna Media[京都府]

かつて就職した企業でスパルタ研修を受けた経験がある伊東が、その記憶をもとにつくった作品を発表した。会場1階には美術史に名を残す巨匠10名が残した金言と、彼らの代表作をトレースした平面作品が並んでいる。そして傍らには、海岸の岩場に立ち金言を絶叫する伊東を捉えた映像作品が。続く2階では、伊東が教官になり、女性アーティストを精神的に追い込みながら先ほどの金言を教え込んでいた。伊東によると、こうした企業研修は外側から見ると異常さが際立つが、実際に体験すると達成感や満足感で得も言われぬ感動に満たされるそうだ。また、人間を型にはめる点では、方法論こそ違えど企業も美術大学も同じだという。制度と人間の関係を問う、非常に考えさせられる作品だった。

2013/05/21(火)(小吹隆文)

Gilberto Garcin写真展 Mr.G

会期:2013/05/18~2013/06/30

GALLERY TANTOTEMPO[兵庫県]

64歳で電気技師の仕事を定年退職し、写真作品の制作を始めたGilberto Garcin。その作品はとてもシンプルで、風景や静物、つくり込んだ場面のなかに、自分と妻の姿をコラージュしたものだ。例えば、不安定な桟橋の上を歩く妻と、その橋脚を支える夫、一部が崩れたレンガ積みの自分の肖像の前で途方に暮れる夫妻、といった具合だ。それらはどれもユーモアと機知に富み、時にはマグリット作品にも似たシュールな趣をたたえている。また、作品から漂う手作り感も、デジタル技術全盛のいま、かえって新鮮だった。

2013/05/25(土)(小吹隆文)

郵便夫と森の星

会期:2013/05/25~2013/05/26

アトリエ河口[三重県]

三重県阿山郡島ヶ原村(現在は伊賀市と合併)出身の画家・岩名泰岳は、滋賀県での美大生時代や卒業後のドイツ留学を経て、現在は郷土での活動を選択。地元の有志と島ヶ原村民芸術「蜜の木」という団体を立ち上げ、地域から発信する芸術・文化活動を模索している。今回は、岩名の作品と、現在彼が使用するアトリエの元の持ち主で、郵便配達夫兼画家だった河口重雄(故人)の作品が共演する2人展を開催。わずか2日限りの機会だったが、初日に行なわれた岩名と後藤繁雄(クリエイティブ・ディレクター)の対談に約150名もの観客が訪れるなど、大きな反響を巻き起こした。実際に出かけてみると会場のポテンシャルが高く、さまざまな企画に対応できることがわかった。岩名をはじめメンバーの士気も高く、今後の活動がとても楽しみだ。

2013/05/26(日)(小吹隆文)

岩渕貞太、関かおり『Hetero』(「DANCE-X13: MONTREAL:TOKYO:BUSAN, 3rd Edition)

会期:2013/05/31~2013/06/02

青山円形劇場[東京都]

闇にスピーカー経由の溜息が漏れる。その直後、男と女が光に照らされた。貝のように向き合う2人。次第にゆっくりとした動作で体の形を変えていくのだけれど、線対称の鏡写し状態で、男が手を延ばせば女も手を延ばし、二つの手は重なる。緻密に同期するユニゾンは、無音のなかで、美しい緊張を保つ。身長差が20センチほどある2人だから、完璧に一致するわけではない。微小なズレは、タイトルが示すような「違い(hetero)」を気づかせるが、ユニゾンの緻密さがともかく徹底していて、2人を人間離れさせる。カナダ、韓国、日本の振付家・ダンサーがそれぞれの国で上演をしてゆくという文化交流の意味合いもある「DANCE-X13」という企画で、彼らは異彩を放っていた。カナダ(ヘレン・シモノー『FLIGHT DISTANCE III: CHAIN SUITE』)と韓国(キム・スヒョン『KAIROS』)の作品は、特徴ある音楽がベースとして流れていて、ダンサーたちはその音楽にリズムを合わせたり、やや離れたりしながら、いかにもコンテンポラリーダンスというような「らしい」運動を見せる。岩渕貞太と関かおりのダンスは、そうした音楽的要素もないし、そもそも何々「らしい」と特定できるような動きではない。圧倒的な個性がそこにあった。一定のスローな動きが、音楽に縛られるような類のダンスの時間性を失効させる。しかし、ずっとスローというのでもなく、素早い動きも差し込まれ、ギアを変えていくからこそ、この個性は引き出されているのだろう。10分ほど過ぎたあたりだろうか。最初のとは異質な男の大声で溜息がまた舞台に投げ込まれた。すると、この2人と溜息の主との関係が、気になってくる。2人は巨大な怪物の胃袋の中で、いまこうして生きている? 正確なことは皆目わからないのだが、そうした連想が湧いてくる。そうなると、2人の体はじつはとてもミクロなスケールなのではないか、などといったさらなる連想に誘われる。形が少しずつ変わり、体が絡まり合うと、2人は未知の昆虫のように見えてくる。その一方で、女の体の丸さや男の体の頑強さが2人を人間に引き留める。3回目の溜息が舞台にこだました。たまたま2人を照らしていた光が2人を見失った。そんなふうに、2人の運動は見えなくなった。

2013/05/31(金)(木村覚)

金光男 個展 CONTROL

会期:2013/06/01~2013/06/30

eN arts[京都府]

金の作品は、パラフィンを塗った紙、キャンバス、パネルに日常風景の写真をシルクスクリーンでプリントし、イメージの一部を熱で溶かして歪ませたものだ。前回の個展では、床置きした作品に電球を密着させてイメージが変容する様を見せていたが、本展では複数の作品を重ねて展示したり、同一イメージの2点のうち1点を歪んだイメージで提示するなどの手法が取られた。彼の作品を見ていると、現実世界までもがいつしか歪みはじめるような不安感に襲われる。そうした精神作用を持つことが彼の作品の特徴なのだ。個展のたびに新たな展示方法の実験を繰り返すことで、作品の強度は順調に増している。

2013/06/01(土)(小吹隆文)

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