artscapeレビュー
未来を変えるデザイン
2013年07月01日号
会期:2013/05/16~2013/06/11
東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]
「未来を変えるデザイン展」は、さまざまな分野の企業19社が、現在2013年時点での社会の課題と、17年後の2030年における課題解決へのヴィジョンを見せるというプロジェクトである。
2010年にデザインハブとアクシス・ギャラリーのふたつの会場で「世界を変えるデザイン」と題する展覧会が開催された★1。これは、2007年に米国クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館で開催された展覧会、およびその記録である書籍『世界を変えるデザイン』(シンシア・スミス、英治出版、2009)をベースに、途上国におけるさまざまな課題をデザインによって解決しようというプロジェクトを紹介するものであった。しかしながら、残念なことに、そこには日本のプロダクトはほとんど見ることができなかった。もちろん、日本の企業が社会貢献に対して関心がないわけではない。また、社会貢献を意図していなくても、たとえば東日本大震災のときには、企業の持つ流通網やサービスネットワークなどのインフラが物資の輸送や情報伝達に大きな役割をはたしたことは記憶に新しい。本展はそのような事例も含め、対象を日本の企業に限定し、社会が抱える課題を抽出し、その問題の解決に企業がどのように関わりうるかを示そうというもので、企画には「世界を変えるデザイン」の企画スタッフも関わっている。
興味深かったのは、プロジェクトの見せかたである。本展で紹介されるなかには、すでに実行されつつあるプロジェクトもあれば、机上のものもある。「世界を変えるデザイン展」がデザインされたプロダクトによる問題解決を中心としていたのに対して、本展でいうデザインは、システムの設計、ビジネスモデルというニュアンスが強く、具体的なモノではない。それゆえ、発表の媒体は冊子やウェブサイトでも済んでしまわないこともない。しかし、それではたしてどれだけの人たちがメッセージを共有してくれるだろうか。
展覧会場には、白く光るアクリルのドームがプロジェクトごとに置かれている。ドームには二つの小さな穴がある。中を覗くと、プロジェクトを抽象的に表わした2種類のミニチュア模型が見える。片方は現在、もう片方は2030年の未来である。これ自体はほとんどなにも語っていない。穴から覗いてみただけではなにが言いたいのかよくわからない。しかし、覗くという行動をうながされると、そこに見えたものがなんなのか知りたくなる。知りたくなるから、パネルのテキストを読む。配布された冊子を読む。そういうしかけなのだ。会期末の会場には若い人たちの姿が目立ち、熱心にメモを取っていたのが印象的であった。[新川徳彦]
2013/06/08(土)(SYNK)