artscapeレビュー
カトウヨシオ「デザインのココロ」
2013年07月01日号
サントリーのインハウスデザイナーとして、BOSS、なっちゃん、DAKARAなど、ヒット商品のデザインを生み出してきた加藤芳夫氏(サントリー食品インターナショナル・ブランド戦略部シニアスペシャリスト/クリエイティブディレクター/日本パッケージデザイン協会副理事長)は、2012年に国際的パッケージデザインアワード「Pentawards(ペントアワード)」で、日本人として初めて名誉殿堂入りした。これを記念して出版された本書は、商品デザイン、ブランドづくりの原点から、商品と消費者のコミュニケーションのありかた、手がけた製品のコンセプトまでをイラストと言葉で綴る、加藤氏の「デザインのココロ」である★1。
私たちの周りにはさまざまなパッケージがあふれている。本来は機能的な必要からモノは包まれるようになったのであろうが、モノは包まれることでまた別の意味、価値を持ちうる。たとえば、百貨店の包み紙とスーパーの袋と、中身が一緒であったとしても、人々はそこに異なる価値、物語を見出す。商品を包むパッケージは、しばしば商品そのものでもあるのだ。
サントリーの飲料部門のパッケージデザインに対するアプローチは、加藤氏がこれを「商品デザイン」という言葉で呼んでいるように、商品づくりからはじまる。デザイナーは入れものをデザインするのではなく、商品そのものをデザインする。味の設計、商品のネーミング、パッケージのデザインを、ひとつのチームで、ひとつのコンセプトのもとでつくりあげているという。飲用する人、飲用シーンを想定し、コンセプトを定め、商品の企画を方向付ける。アートディレクターとなってからの加藤氏は、あえて自らデザインすることを止め、この方向付け=ディレクションに徹しているのだという★2。方向付けが具体的すぎては、デザイナーはただの下請けになってしまいかねない。解釈の余地があるから、新しい魅力的なものが生まれる。ピーナッツのようなキャラクターによるイラスト(加藤氏の分身だろう)と、優しい言葉で商品づくりのエッセンスを綴った本書は、まさしく加藤芳夫氏のデザインへのアプローチそのものではないかと思う。[新川徳彦]
2013/06/30(日)(SYNK)