artscapeレビュー
人の輪をつなぐ──オリンピックとポスターデザイン
2015年09月01日号
会期:2015/06/15~2015/09/05
京都工芸繊維大学 美術工芸資料館[京都府]
京都工芸繊維大学美術工芸資料館の所蔵する多くのポスター・コレクションのなかから、歴代オリンピック・ポスターの変遷をたどる展覧会。第1部では、1920年のアントワープ(ベルギー)におけるベル・エポック様式の色濃い美術絵画的ポスターから始まり、1980年のモスクワ(ソ連)まで9カ国のポスターが展示される。そこでは、現代のポスターが色と文字(形)で構成されるようになり、いかに簡略化・抽象化されていったかという流れを見て取ることができる。またそうした変化の背景に写真やCGの活用があることも、次章を合わせて見るとよくわかる。その第2部では、「日本のオリンピック(1964年東京/72年札幌/98年長野)」に焦点が当てられている。まずは亀倉雄策による東京オリンピック・ポスターの4種から。日の丸に五輪のシンボルマークを組み合わせたものが中心に置かれ、左右には五輪史上初めて写真を採用したポスターが配される。これは亀倉が「効果的な配し方」と示唆したやり方に倣っており、いま見てもなお新しく、迫力のあるポスターに圧倒される。72年札幌のポスターは、永井一正がデザインしたシンボルマーク(日の丸に初雪の家紋と五輪の組み合わせ)を用いた亀倉監修作、細谷巌、河野鷹思、田中一光、栗谷川健一の味わいの異なる作品を見ることができる。98年長野のポスターでも同様に具象から抽象までのヴァリエーションと、技術向上によるデザイン上の変化、イラストに書家を採用したもの、自然環境保護を喚起する社会的なものなど、多様なポスター5種が展示される。最後の特集展示では、「オリンピックを飾ったデザイナーたち」というタイトルのもと、亀倉・永井・田中・細谷・青葉益輝・浅葉克己6名による代表的なポスター群を一堂に展覧する。本展は、学生が手掛けた博物館実習の一環であるが見応えは十分。五輪の歴史だけでなくロゴやマスコットキャラクター・ピクトグラム・メダル・切手にも目配りされている。学生の奮闘のみならず、同館コレクションの質の高さも窺える。[竹内有子]
2015/08/19(水)(SYNK)