2020年06月01日号
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artscapeレビュー

aokid×橋本匠『HUMAN/human』

2015年09月01日号

会期:2015/07/29~2015/08/02

STスポット[神奈川県]

舞台の床一面に散らばっているのは、真ん中を折られて立っている紙たち。紙には一枚一枚異なる絵が描いてある。「絵」というよりは、それは絵の具の運動だ。その場にaokidと橋本匠が現われ、走り出す。すると、紙たちは踏まれたり風に煽られたりして倒れる。人間が動く、そのことで、周囲の物たちが反応する。こんな冒頭からしてそうなのだが、シンプルな「作用と反作用」が、この舞台を終始構成し続ける。これはダンスなのか? もうそういう問い方はどうでもよい。ミニマルな動作を「ダンス」と呼ぶ歴史は50年ほど前からあったとして、ミニマルな動作が原因となり、次の別の動作の基となる、といった2人の案出した連鎖だって、どうだろう「ダンス」と呼んでいいはずだ。よい場面がいくつもあった。例えば、不意にaokidが壁をノックし始めた場面。しばしばダンスの上演では、空間は抽象化され、そこに壁があること、天上や床があることなど「ない」想定で進みがちだ。映画『トゥルーマン・ショー』でジム・キャリーがこの世から脱出しようとして「コツン」と世界の果てに突き当たってしまったように、aokidは実は「ある」壁を手で叩く。叩くと壁の表情が浮かぶ。次第にそれはリズムをもち、次の動作を引き出す。こうしたデリケートな連鎖は、この場にあるものすべてを共演者にしていく。紙をちぎると、2人は壁に貼付け、紙たちはコンポジションを形成していく。紙を貼るたび、2人は言語にならない声でその紙を「命名」するのだが、そんな形と声の関係も面白い。終幕に向けて、赤い紙テープが、空間をダイナミックに横断しはじめた。それを潜ったり、跨いだりする2人は一言「この糸が俺たちにダンスさせる!」と叫ぶ。そう、人と物との作用反作用の関係は、容易く反転しうるのだ。とくにaokidの表現にはいつもそう思わされるのだけれど、人と物とが等価に置かれた舞台は、とてもクールで、ポップで、居心地がよい。そこには2人の倫理観、世界への態度が裏打ちされているように見える。だから揺るぎがない。そして力強いのだった。


HUMAN/human

2015/08/01(土)(木村覚)

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