artscapeレビュー
堂島リバービエンナーレ2015「テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー──同時代性の潮流」
2015年09月01日号
会期:2015/07/25~2015/08/30
堂島リバーフォーラム[大阪府]
大阪・中之島では堂島リバービエンナーレが開催された。第4回となる本展は「テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー──同時代性の潮流」と題して、国内外15組のアーティストの作品で構成された。「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」、アーティスティック・ディレクターのトム・トレバーは方丈記の出だしの一節から本展のコンセプトを語りだす。人の時間の感覚が空間の感覚と深く関わっているということはいつの世もかわらないのだろうが、本展では川、水、流動性をキーワードに、現代社会の空間的な広がりが描き出された。
とくに気になったのは映像を使った3作品。いずれも、映像作品の本領が存分に発揮された作品であった。池田亮司の作品は、3台のプロジェクターを使って約22×11メートルの画面を床面に映し出したインスタレーション。鑑賞者は電子サウンドとそれにあわせて川のように流れる光の映像を浴びながら、デジタルデータの内部に入り込んだような感覚にとらわれる。ヒト・スタヤルの作品《リクイディティ・インク》は、大きなスクリーンの前に波状に張ったマットの上に乗って映像を鑑賞するインスタレーション。「Be water」と語りかけるブルース・リー、北斎の《神奈川沖浪裏》の波打つ海、不確定な明日を予想し続けるウェザー・レポート、インターネットという情報の海に次々に身を投じる人々など、さまざまなイメージをつなげた30分間の映像にグローバリゼーションという現代の社会空間の広がりと揺らぎが描き出される。フェルメール&エイルマンスの作品《マスカレード》は、44章からなるドキュメンタリー仕立ての50分間の映像作品。株式と同様に市場で取り引きされる美術作品、その価値は価格によって構築され信用という漠然とした関係性によって成り立っているという実態があらためて知らされる。そして、美術家や美術作品に限らず、誰もがそれと同じような価値の流動性のなかを生きていることを思わせる作品であった。
本展は会場が1カ所で派手なイベントもなく近年の芸術祭のなかでは比較的コンパクトでシンプルなものであっが、作品一点一点を落ち着いてじっくり鑑賞できる、見応え十分の展覧会であった。[平光睦子]
2015/08/13(木)(SYNK)