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明治のクール・ジャパン 横浜芝山漆器の世界 ─金子皓彦コレクションを中心に─

2016年11月01日号

会期:2016/07/22~2016/10/23

横浜開港資料館[神奈川県]

安政6年(1859年)の開港以来、横浜港からは漆器、陶器、木製品などさまざまな工芸品が輸出され、来日した外国人がお土産品として購入した。輸出港である横浜には各地から工芸職人が移り住み、これら輸出向け商品の生産を行なった(京都から横浜に移り住んだ陶芸の宮川香山(真葛焼)もそのひとりだ)。芝山漆器(芝山細工)は、江戸時代の後期、上総国武射郡芝山村の芝山専蔵によって考案されたといわれる。平面的な螺鈿細工と異なり、芝山細工は美石、象牙、珊瑚、貝殻などを材料に、人物、花鳥を大胆なレリーフで表現している。当初は江戸向けの商品であったが、開港後に横浜で生産が始まり、その盛期には50軒100を数える職人がいたという。花鳥の他、外国人好みの富士山や人力車の意匠が小箱や宝石箱、横浜写真と呼ばれる着色写真アルバムの表紙に施された。本展に出品されている芝山漆器の多くは、日本輸出工芸研究会会長・金子皓彦氏のコレクション。このほか、昭和52年(1977年)まで横浜で代々漆器を製造していた村田家の資料、現在横浜芝山漆器を製造している宮崎輝生氏による作品、下絵、工程品、工具が展示された。
近年明治の輸出工芸に人々の関心が集まっている。ただし、都心の美術館で見ることができるのは、海外での万国博覧会に出品された優品や、帝室技芸員となった工芸家たちの作品が中心で、地場の職人が手がけ、外国人のお土産になったような工芸品が美術館に並ぶことは稀だ。「超絶技巧」ともてはやされている明治工芸を見知った人には、同時期につくられた芝山細工のような輸出工芸品の意匠はとても奇異に見えると思う。しかしながら、以前金子コレクションについて書いた言葉を繰り返せば、これらの製品に用いられた技術は必ずしも一流ではないかもしれないが、ここに見られる品々は優品として遺されてきたものよりもずっと普遍的な日本の工芸品生産の結果であり、明治以降、否、それよりもはるか以前から、マーケットを志向せずしては存立し得ない工芸の本来の姿を伝える貴重な史料なのだ。[新川徳彦]

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2016/10/16(日)(SYNK)

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