2018年07月01日号
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artscapeレビュー

没後100年 宮川香山

2016年03月01日号

会期:2016/02/24~2016/04/17

サントリー美術館[東京都]

近年再評価が進む明治期の輸出工芸のなかでもその特異な造形が異彩を放つ陶芸家・宮川香山(初代、1842-1916)の作品と史料約150点を紹介する展覧会。作品の大部分は宮川香山やその周辺の陶工の作品を50年にわたって集めてきた田邊哲人氏のコレクションで、4階会場はおもに高浮彫と呼ばれる装飾陶器。そして3階会場は香山が後年取り組んだ釉下彩の磁器が並ぶ。やはり目を驚かせるのは高浮彫の壺の数々。ボディとなる器だけを見れば輸出向けの薩摩焼などとさほど変わらないのだが、その表面に絡みつき、あるいは胎土をえぐるような立体的な装飾には驚くばかり。浅浮彫の陶磁なら他にいくらでもある。しかし香炉の上に立体的な猫を乗せるとか、壺の側面をえぐって洞窟に見立てた中に熊の親子を彫り込むとか、騙し絵のように見える半立体の南天と鶉の組み合わせとか、壺から這い出ようとしているかのような2匹の蟹とか、この想像力はいったいどこから涌いてきたのだろうか。香山が高浮彫をはじめた理由は、当初薩摩風の作品を手がけていたけれどもこれは装飾に金を大量に消費するために貴重な金が海外に流出して国家の損害となることを憂い、それとは異なる装飾技法としてこれを生み出したからとされる。そうしたきっかけや彼の志は理解できなくはないが、それがこのような造形となって現われたことについてはもう少し具体的に、たとえば国内外の需要や他の工芸との関わりのなかで説明できないものだろうか。もとより香山が市場を志向していたことは間違いない。京都で代々陶業を営んでいた家の出身者が、陶磁器産地ではない横浜に移り住んだのは、ここが海外への輸出港だったからだろう。本展監修者の服部文孝・瀬戸市美術館館長は、「輸出品々々々と言って特別に外国向の品を作る様に思はれるが私等にはソンナ区別はない、私は何処迄も日本固有なものを保存し度いが一念である」という香山の言葉を引いて彼が「『日本固有の美の保存』を追求し続けていた」とするが(本展図録、8頁)、はたして額面通りに受けとってよいものか。日本固有の美というならば、なぜ伝統のある京都から横浜に出てきたのか。高浮彫の起源は日本の陶磁のどこに求められるのか。なぜ途中で技術が異なる釉下彩磁器へと転換したのか。と、疑問は尽きない。そもそも香山の作品は他の明治工芸同様日本人のためにつくられたものではなく、ほとんどが輸出されたために、コレクターたちが海外から里帰りさせはじめた近年になるまで作品もその名も忘られていたのではなかったか。ともあれ、田邊コレクションの一部はこれまでに神奈川県立歴史博物館でその一部が展示されていたものの、これだけの規模の展覧会は他の方のコレクションも含めて初めてだと思う。研究はこれから進んでゆくに違いない。
 なお、コレクターの田邊哲人氏は「スポーツチャンバラ」の創始者で日本スポーツチャンバラ協会・世界スポーツチャンバラ協会の会長である。世界中にお弟子さんがいるそうで、そのネットワークは貴重な作品の蒐集にも役立っているそうだ。
 本展は大阪市立東洋陶磁美術館(2016/4/29~7/31)、瀬戸市美術館(2016/10/1~11/27)に巡回する。[新川徳彦]

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