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国際シンポジウム:「複合媒材」の保存と修復を考える

2018年02月01日号

会期:2017/12/16

金沢21世紀美術館[石川県]

タイトルの「複合媒材」は「ミクスト・メディア」といったほうがわかりやすいかもしれない。要するに絵画・彫刻といった従来の形式から外れたメディアアートやインスタレーションなど、後先を考えずにつくられた現代美術の保存と修復を巡るシンポジウム。朝から夕方まで半日がかりの長丁場だが、全部聞いたのはもちろんヒマだったこともあるけど、それ以上に現代美術を保存・修復する行為に矛盾というか違和感を感じていたからだ。午前中はボストン美術館のフラヴィア・ペルジーニの基調講演があり、昼休みを挟んで午後から韓国のサムスン美術館リウムの柳蘭伊(リュウ・ナニ)、香港に開館予定のM+(エムプラス)のクリステル・ペスメ、21世紀美術館の内呂博之がそれぞれ事例報告を行なった。いずれも作品の保存・修復を担当するコンサベーターの肩書きを持つ。

まずペルジーニがボストン美術館の取り組みを紹介。同館は古代から現代まで45万点のコレクションを誇る世界屈指の総合的ミュージアムだけあって、コンサベーション部門だけで30人もいるというから驚く。なかでも現代美術の保存・修復は、媒材が多様なうえ規格が更新されていくため苦労するらしい。特に光や音を出したり動いたりする機械仕掛けの作品は、時がたつにつれ技術が陳腐化していくため、部品が製造中止で入手できず動かなくなるといった問題が生じる。そのためコピーをつくって展示し、オリジナルを保存するなどいろいろ工夫しているという。そこまでして残す価値はあるのか、それこそ裸の王様ではないかと疑念が浮かぶ。

柳はサムスンが購入したナムジュン・パイクの《20世紀のための32台の自動車》という屋外インスタレーションを中心に、リキテンスタインの屋外彫刻、宮島達男のLEDを用いた作品の修復例を報告。ペスメは高温多湿、台風が多くて海も近いという美術品にとっては厳しい環境の香港で建設中の美術館の取り組みを紹介。内呂は21世紀美術館のように人の入りやすい美術館は、外のホコリや菌が持ち込まれやすいため作品にとってリスクが大きいというジレンマを打ち明け、また日本の国公立美術館でコンサベーターを抱えているところは10館にも満たず、現代美術にいたってはほとんどいないという現状を訴えた。最後のディスカッションで記憶に残ったのは、作品やオリジナリティの概念自体が大きく変わった現代美術にあって、かつての保存・修復の技術や考えでは対応できなくなっていることだ。むしろモノとしての作品を無理に残すより、作者の意図、作品のコンセプトを保存すべきではないか、という意見には賛同する。

2017/12/16(土)(村田真)

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