artscapeレビュー
《モンテマルティーニ美術館》《スクデリエ・デル・クイリナーレ》
2018年02月01日号
[イタリア、ローマ]
当然ながら歴史建築が多く残るローマでは、リノベーションが多い。例えば、古代のトラヤヌスのマーケットやディオクレティアヌスの浴場は博物館に転用され、カンピドリオの博物館は2005年にカルロ・アイモニーノによる改装が行なわれた。現地で購入したDOM publishers刊の新しい建築ガイドでも冒頭からリノベーションのオンパレードである。今回の滞在では《モンテマルティーニ美術館》を初めて訪れた。1997年のこけら落としの展覧会のタイトルが「機械と神々」だったように、発電所に古代の彫刻を置く独特の空間である。日本でも発電所美術館は存在するが、現代アートを対象としている。外観こそ簡略化した古典主義だが、内部に入ると、巨大な機械の隙間に胸像が並ぶ。設計はフランチェスコ・ステファノリ。工場萌えとローマ美術の愛好家が遭遇するようななんともユニークな施設である。また大空間において法王専用の列車も展示されていた。
クイリナーレ宮の向かいの旧厩舎も、オルセー美術館で知られるリノベーションの名手、ガエ・アウレンティの設計によって美術館《スクデリエ・デル・クイリナーレ》に改造されている。なるほど、上階の展示室への導入となる幅が広く、傾斜が浅い大きなスロープは、もともと馬用だったらしい。交差ヴォールトの中心をくり抜いたトップライトや足元の壁の一部をかきとるマニエリスティックな操作によって、現代的な空間に変貌している。ここでは古代ローマの詩人オウィディウスをテーマにした展覧会が開催されていた。もっとも、その文学的な技巧を紹介する企画というよりは、詩の内容(例えば「変身物語」)に触発された画家や彫刻家による視覚の作品を集めたものである。現代の美術家だと、ジョセフ・コスースも参加し、オウィディウスの言葉を抜粋する作品によって展示の冒頭を飾る。個人的には、詩の形式や韻律に注目し、音などを使う展示も欲しかった。
2019/01/02(水)(五十嵐太郎)