2019年08月01日号
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artscapeレビュー

君は『菫色のモナムール、其の他』を見たか?─森村泰昌のもうひとつの1980年代─

2018年12月15日号

会期:2018/11/03~2019/01/27

モリムラ@ミュージアム[大阪府]

大阪の北加賀屋にオープンした、森村泰昌の美術館「モリムラ@ミュージアム」の開館記念展。北加賀屋はかつて造船業で栄えた地域だが、近年は元造船所の広い空間や敷地を活かした展示や舞台公演の開催、アーティストの活動拠点化など、アートによる活性化が進む。森村は、家具店のショールームだった築40年の建物をリノベーションし、フロア面積400㎡の美術館として生まれ変わらせた。

外観は平凡な事務所だが、2つのホワイトキューブの展示室に加え、本格的な座席を備えたミニシアター、開放感のあるライブラリー、グッズや書籍を揃えたミュージアムショップを有し、美術館としての機能をコンパクトに備えている。古い商店のガラス戸や森村の実家の茶屋で使用されていた茶箱が什器として使われるなど、新旧が同居する空間だ。

本展の1室では、森村が扮装のセルフポートレート作品を制作するようになってから初めての個展「菫色のモナムール、其の他」(1986年、大阪のギャラリー白)を再現した。ロダンの彫刻に扮した、身体性の強い作品が並ぶ。またもう一室では、出世作となった《肖像(ゴッホ)》(1985/89)に加え、マネの描いたベルト・モリゾ、伝説的ダンサーのニジンスキー、道路標識(!)に扮したセルフポートレート作品が展示された。巨大な《男の誕生》は、ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》に倣い、画廊主や同世代の作家3名と共演した珍しい作品だ。これらのカラー写真作品とともに、80年代前半に手がけた作品(カトラリーや卓上のオブジェを構成主義風に写したモノクロ写真、抽象的なシルクスクリーン作品、デザイナーとして手掛けた美術館のポスターなど)が並び、「スタイル」を確立するまでの模索時期/確立初期の作品群が一堂に会している。

「80年代」が森村にとっては多様な方向性を試す模索時期であったとともに、ロダンの男性像やニジンスキーといった対象の選択には、「身体性」への関心もうかがえる。森村自身は、ミニシアターで上映された《モリムラガタリ・80’s》で、むしろ時代の雰囲気から齟齬やズレを感じていたこと、80年代に作った作品だがアンチ80年代であると語っている。だが、例えばニジンスキーに扮した彼が、金色に塗られた「コンバースのハイカットシューズ」を履くといった身振りのなかに、80年代における消費社会の到来や個人の嗜好のブランド化に対する批評性を見てとることができる。

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