artscapeレビュー
増山士郎展 Tokyo Landscape 2020
2018年12月15日号
会期:2018/11/23~2018/12/02
Art Center Ongoing[東京都]
2010年から北アイルランドのベルファストに住んでいる増山の、日本では4年ぶりの個展。テーマは増山が北アイルランド移住後に起きた東日本大震災と原発事故。これを2年後の東京オリンピックに結びつけて、インスタレーションとして見せている。作品は、天井から吊るした細長い透明アクリル板の上に、タブレット端末、やかん、黒く焦げた4つのアクリルボックスなどを配置してコードでつなげ、3人組の白い石膏像を20-30体ほど設置したもの。その上には5色の電気コードによる5輪のマーク。タブレットには放射線量が表示され、黒焦げのアクリルボックスは福島第1原発、やかんは原子炉を表わし、上下する照明(核エネルギー)とも連動して沸騰する。3人組の石膏像はよく見ると「見ざる言わざる聞かざる」で、日本国民のこと。こんなに近くに危機が迫っているのに、なにごともなかったかのようにやりすごそうとしているからだ。彼らが乗ったアクリル板は揺れるので、床には落ちた石膏像の破片が散らばっている。
これを発想したきっかけは、オリンピック誘致の際に首相が「福島原発は完璧に制御されている」と断言した演説に、違和感を抱いたこと。また、その演説に日本国民が大した反応を示さなかったことだという。こうした国内の出来事については日本にいるより、むしろ海外にいたほうがバイアスがかからずダイレクトに伝わるのだろう。作品も図式的ともいえるほど直球勝負で、すがすがしいほど。ただ、日本人は「見ざる聞かざる言わざる」だといわれると、その「上から目線」というか「外から目線」に抵抗を感じないわけではないが、あまりにストレートでユーモラスな表現に好感を抱いてしまう。まあそんなノンキなことがいえるのも、ぼくがどっぷり日本のぬるま湯に浸かっている証拠かもしれない。
2018/12/01(村田真)