artscapeレビュー

君は『菫色のモナムール、其の他』を見たか?

2018年12月15日号

会期:2018/11/03~2019/01/27

モリムラ@ミュージアム[大阪府]

地下鉄四つ橋線で南下して北加賀屋駅から徒歩5分ほど、殺風景な住宅街に森村泰昌の個人美術館がある。家具屋だった建物の2階を改装し、2本の「80年代展」(国立国際美術館と高松市美術館)のオープニングに合わせて開館した。そのため開館記念展は「森村泰昌 もうひとつの1980年代」として、「君は『菫色のモナムール、其の他』を見たか?」というタイトル。出品はすべて80年代のもので、初期の写真やグラフィック作品から、デビュー作の《肖像(ゴッホ)》、赤松玉女との共作《男の誕生》など計30点ほど。興味を惹いたのは、1986年に開いたセルフポートレートによる初個展「菫色のモナムール」を、奥の展示室で再現していることだ。

森村というと「ゴッホ」の記憶が強烈だったせいか、どうしてもコテコテのお笑いアートみたいなキワモノ的イメージがつきまとうが、この個展を見ると印象がガラッと変わる。セルフポートレートといいながら首がなかったり、手足が欠けていたり、包帯が巻かれていたり、全身を赤や黒に塗られていたり、なにか暗くてドロドロとしたドス黒いものが感じられるのだ。考えてみればゴッホだっていまでこそ人気画家だが、当時は怒りっぽい貧乏画家で、みずから耳を切り落とし、精神疾患を患い、最後は自殺した(他殺説もあるが)異端児。そんな画家に扮する森村も相当の異端児なのではないか。ゴッホだけではない。ニジンスキーもフリーダ・カーロも三島由紀夫も、彼が扮してきた芸術家はみんなすさまじい情念の渦巻く異端児だ。そんな森村の原点というか素顔がかいま見られる展示だった。

2018/12/02(村田真)

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