artscapeレビュー
「立ち上がりの技術vol.3 とある窓」
2018年12月15日号
会期:2018/11/02~2018/12/24
東北リサーチとアートセンター(TRAC)[宮城県]
仙台の大町西公園駅から近い東北リサーチとアートセンター(TRAC)で開催された「とある窓」展を訪れた。震災から7年以上が経過したが、岩手・宮城・福島の現状をリサーチし、窓から見える/見えた風景をNOOK(アーティストと研究者の組織)が聞き取り、写真家の森田具海が室内から外に向けて撮影した企画である。したがって、会場では各地の窓の写真と、それぞれに対してヒアリングした内容を記した小冊子が並ぶ。例えば、かつて畑が広がり、海水浴場に向かう人が見えた仙台市荒浜の窓、陸前高田の小学校の窓から見える風景、被災後の新しい住処で以前のようにつくられた庭、三度の津波を目撃した福島の江戸時代の建物などである。また奥の部屋では取材時の映像を流していた。なお、語り手が映っている写真はほとんどなく、姿が入っても後ろ姿であり、おおむね窓から見える風景だ。3.11から時間が経っていることもあり、基本的には壊れた窓もない。
一見、どこにでもありそうな何気ない日常的な窓が多い。が、それぞれの写真に付随するテキストを読むと、窓にまつわるさまざまな物語が紡がれ、そこから風景の記憶がたぐり寄せられる。多くの窓は震災・津波の前後、そして被災後の復興=劇的な風景の変化を目撃しており、窓の代りに、居住者や使用者がわれわれに方言で語りかける。小さなギャラリーの展示だが、窓学(窓研究所による窓を多角的に研究する活動)に長く関わってきたものとしては、窓という切り口はいろいろな可能性をもつことを改めて教えてくれる。実際、美術史をひもとくと、過去の絵画でもしばしば描かれてきたように、窓は人と風景をつなぐ建築的な装置だ。なお「東北リサーチとアートセンター」は、仙台のアートノード事業の一環として発足した活動拠点である。2、3年に1度開催するお祭り型の芸術祭ではなく、地域の歴史や課題の研究、ならびに表現活動を継続していくアートプロジェクトを担う場だ。
2018/11/10(土)(五十嵐太郎)