artscapeレビュー
草野庸子『Across the Sea』
2018年12月15日号
発行所:roshin books
発行年:2018
昨年3月に東京・池ノ上のQUIET NOISEで個展「EVERYTHING IS TEMPORARY」を開催し、同名の写真集も刊行した草野庸子が、新作写真集を出版した。その『Across the Sea』はロンドン旅行で撮影したスナップ写真で構成されている。
淡いオレンジが黄緑へと移ろっていく「空」の写真からスタートし、旅先で出会った人、モノ、光をちりばめながら進んでいって、再び「空」の写真で終わる写真集の構成は、センスがいいとしか言いようがない。前作と比べると、ロンドンという時空間に限定されていることもあって、かなり異質な写真がせめぎ合っているにもかかわらず、すっきりとしたまとまりを保って目に飛び込んでくる。見ること、撮ることの弾むような歓びが感じられるいい写真集だった。
ただ、その先を見てみたいという思いがどうしても強まってくる。草野がなぜロンドンに行かなければならなかったのか、なぜこの写真集をまとめなければならなかったのか、その切実な理由がまったく伝わってこないのだ。あとがきにあたる「彼方へ」と題する文章で、彼女はこんなふうに書いている。
「彼方へ、遠くへ行きたいような、/此処に居続けていたいような、いつだって何もかもを/捨てられる身軽さに憧れ、その反面じめじめとした/ねちっこい執着も持っていたい。同じところをぐるぐるまわっている。」
素直な感慨だと思うが、「同じところをぐるぐるまわっている」だけでは仕方がないだろう。センスのよさだけで勝負できる時期はそれほど長くはない。そろそろ気合いを入れて、「初期代表作」に取り組んでほしいものだ。
2018/12/06(木)(飯沢耕太郎)