artscapeレビュー

長町文聖「OLD VILLAGE」

2019年02月15日号

会期:2019/02/01~2019/02/17

photographers’ gallery[東京都]

写真家が撮影するカメラを変える理由はさまざまである。単純に目先を変えるということもあるだろうが、多くは被写体との向き合い方が違ってきたためだと思う。長町文聖は、これまで8×10インチの大判カメラで、街を行き交う人を撮影した作品を発表してきた。ところが、今回のphotographers’ galleryでの個展では、35ミリの小型カメラにシフトし、ネガカラーフィルムで撮影・プリントしている。

長町にその理由を尋ねたところ、「数をたくさん撮りたかったから」という答えが返ってきた。たしかに8×10インチのカメラでは撮影枚数が限られてくる。だが、それだけでなく、彼の撮影の姿勢そのものが変わってきているのではないだろうか。あらかじめ「絵」を描いてシャッターを切っていたように見える前作に比べると、今回の「OLD VILLAGE」では、街を歩きながら偶発的に発見した場面をカメラにおさめている。結果的に、なんとも即物的、散文的な印象の写真が並ぶことになった。

被写体になっているのは前作と同じく、長町が居住している東京・町田市の眺めである。前作ではそれがどこであるのかはあまり重要なファクターではなかったが、今回は町田というやや特異な成り立ちの地域、東京都下にもかかわらず、どこか地方都市のような雰囲気の街のたたずまいがくっきりと、細やかに浮かび上がってきていた。古い農家の名残のような建物と、高層アパートや商店街が同居する、雑然とした、やや気の抜けた眺めが淡々と目に飛び込んでくる。ただ、このシリーズはこのまま同じように続いていくのではなく、大判カメラによる写真と綯い交ぜにしていくプランもあるという。どこにでもありそうな、だがヴァナキュラーな特異性も併せ持った町田を、写真によって探求していく試みとして、面白い成果が期待できそうだ。

2019/02/11(月)(飯沢耕太郎)

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