artscapeレビュー

公文健太郎「地が紡ぐ」

2019年02月15日号

会期:2019/01/15~2019/02/13

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

前作の「耕す人」(2016)で日本の農業をテーマに力作を発表した公文健太郎の新作展である。今回はさらに視点を広げ、それぞれの土地に根ざした人々の生活の営みや文化に目を向けている。

3部構成の第1章の「神事を受け継ぐ地」では、青森県下北郡東通村の鹿橋(ししばし)という集落に伝わる「能舞」を取り上げた。先祖代々受け継がれてきた神楽がどのように住人たちの生活に溶け込んでいるかを、舞いに使う面のクローズアップも含めて丁寧に追っている。第2章の「自然の恵みを享受する地」では、栃木県那須郡那須町湯本の湯治場を撮影した。ここでも、大地の恵みといえる温泉が住人たちの暮らしのなかに取り込まれている。第3章「ものづくりで生きている地」のテーマは、生活雑器の国内シェアの4分の1以上を生産しているという長崎県東彼杵郡波佐見町の中尾郷である。「おれらは土を喰って生きてきたんじゃ」と語る94歳の老陶工を中心に、日本の窯業の現状に迫っている。

3つの章はそれぞれ違った方向を向いているが、それらが噛み合うことで、2010年代後半の日本の社会・文化の基層を浮かび上がらせる構成がとてもうまくいっていた。写真を天井から吊るすなど、会場のインスタレーションもよく考えられており、公文の表現力の高まりを感じることができた。彼はいま次の作品として「川」と「半島」の写真を撮り始めているという。文字通り「地に足がついた」写真家として、さらなる展開が期待できそうだ。

2019/02/07(木)(飯沢耕太郎)

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