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イメージコレクター・杉浦非水展

2019年02月15日号

会期:2019/02/09〜2019/04/07、2019/04/10〜2019/05/26

東京国立近代美術館 本館2階ギャラリー4[東京都]

「デザイン」を日本語に訳すことは難しい。あえて言うなら、図案、意匠、設計などの言葉が当てはまるか。明治、大正、昭和初期に生きた杉浦非水は、日本にまだデザインという言葉と概念がない時代に活躍したグラフィックデザインの先駆者だ。まさに図案家として、三越呉服店のポスターやPR誌の表紙をはじめ、さまざまな企業のポスターや装丁の仕事に携わった。本展はその杉浦の膨大な作品群を紹介する展覧会である。

杉浦の作品の魅力は、当時の時代背景を反映した和洋折衷的なモダンさであろう。非常に明快で親しみやすいのだ。もともと、東京美術学校(現・東京藝術大学)で日本画を学んだという経歴ゆえか、まるで竹久夢二の美人画を思わせる柔和でハイセンスな女性像がよく登場している。また、杉浦が影響を受けたのではないかと言われる、アール・ヌーヴォー様式もときどき取り入れているのがわかる。さらに大胆でユニークな構図は、フランスのポスター画家のカッサンドルやサヴィニャックの作品を彷彿とさせることもある。そんなふうに作品を観ながら、杉浦を何かに紐付かせようとあれこれと頭を巡らせるが、結局、杉浦が長けていたのは編集力だったのではないかと思い至る。

本展のタイトルでも杉浦を「イメージコレクター」と称しているように、杉浦は海外の新聞や雑誌、美術書などをコレクションし、また独自にスクラップブックを作成して、それらを大事な資料にしていたという。日本のグラフィックデザイン黎明期において、当然、デザイン専門書は身近になく、ましてやDTPは遥か遠い未来のことである。自ら積極的に資料となりそうなものを探し求めるほかはない。例えばスクラップブックには海外の新聞や雑誌から切り抜いたと思われるさまざまな書体の見本、つまりタイポグラフィー一覧があり、その涙ぐましい努力には感銘を受けた。一方で、動植物の端正な写生を「眼の記録」として残しており、外から内からさまざまな要素を自らに取り込んでいたことがわかる。インプットし、アウトプットする。この二つの行為の間に必要な咀嚼に非凡な才能を発揮したからこそ、杉浦は優れた作品を生み出すことができたのではないか。その点からしてもデザインの先駆者だったと言える。

杉浦非水《三越呉服店 春の新柄陳列会》(1914)

杉浦非水《カルピス》(1926)

杉浦非水《ヤマサ醤油》(1920頃)

公式サイト:http://www.momat.go.jp/am/exhibition/imagecollector2019/

2019/02/10(杉江あこ)

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