artscapeレビュー
高雄の現代建築をまわる
2019年06月15日号
[台湾]
約10年ぶりに台湾の高雄を訪れた。主な目的はオランダのメカノーによる《衛武営国家芸術文化センター》がオープンしたからである。が、これ以外にもいくつものインパクトがある大型の建築プロジェクトが進行しており、高雄は変貌の最中だった。一方でグローバル時代の都市間競争を考えたとき、東京は開発の数こそ多いけれども、注目すべき建築がほとんどないことが心配になる。
さて、コンピュータ時代のぐにゃぐにゃの造形をもつメカノーの新作は、伊東豊雄の《台中国立歌劇院》と同様、矩形の輪郭だが、垂直方向ではなく、うねりながら水平に広がり、公園に接続している。ホール群の内部は見学できなかったが、その余白には広い共有空間があり、建築を楽しめるのが良い。実際、台湾の各地から多くの観光客が集まっていた。施工の粗さは気になるが、意気込みを感じる巨大な実験建築である。
高雄駅と周辺の大開発も、メカノーが担当しており、部分的にダイナミックな空間が完成している。完成予想図を見ると、日本統治時代につくられた小さな《旧高雄駅》が再び曳家され、都市の中心軸に配置されるようだ。
海辺にも新しい風景が出現している。ウォーターフロントの倉庫群は、芸術特区となり、あちこちに飲食店とアート作品が散りばめられ、賑わっている。また一角にある《鉄道館》のミニ鉄道が外にも飛びだすのが楽しい。平田晃久がコンペで二位だった《海洋文化及流行音楽中心》は工事が進み、幾何学形態を組み合わせながら、海を囲む建築の姿がだいぶわかるようになった。ライザー+ウメモトによる大型のクルーズ船を意識した《高雄港国際線旅客船ターミナル》も、かなり完成している。その近くにたつCOXによる《高雄展覧館》(2013)や李祖原の《高雄85ビル》(1997)も、巨大建築だ。
《高雄市立図書館 総館》(2014)は《せんだいメディアテーク》とよく似た外観だが(逆に違いを比較すると興味深い)、伊東の名前もクレジットされており、計画に関わっているらしい。ちなみに、和洋の《高雄市歴史博物館》(1939)のほか、哈馬星のエリアにも独特の柱をもつ《高雄武徳殿》(1924)、《臺貳樓(旧山形屋書店)》(1920)、貨幣博物館になった銀行、駅舎など、日本統治時代の建築がよく残り、うまく活用されていた。
2019/04/28(日)(五十嵐太郎)