artscapeレビュー

那須の建築をまわる

2019年06月15日号

《アートビオトープ那須》にある石上純也の《ウォーター・ガーデン(水庭)》(2018)を見学するために、ランチ付きのツアーに参加した。おそらく、もっと緑の多い時期に訪れたほうが良さそうだったが、やはり新鮮な体験だった。土地の高低差はあまりない平場において、彼の傑作《KAIT工房》の柱の本数とほぼ近い約300本の樹木をすべて独自に配置しながら、それらのあいだに鏡面と化す大小の水庭を迷路のように散りばめる。屋根はないから、《KAIT工房》のときのような構造計算の必要はないが、複雑性への志向は同じだ。当然、これは明快な軸をもった幾何学式の庭園ではない。かといって風景式の庭園に比べると、ある種のルールをもち、自然に発生しない状態になっており、自然と人工の中間だ。また通常の生態系ならば、生まれるであろう背の低い植物も、視界を確保するためなのか、排除されている。なお、《ウォーター・ガーデン(水庭)》の向かいには坂茂による新しいコテージが登場する予定らしい。



《ウォーター・ガーデン(水庭)》2018(栃木県那須郡那須町)

続いて、宮晶子のデビュー作、《那須の山荘》(1998)を見学した。隣地に他の建築が増えないであろう恵まれた自然環境に囲まれた、家型をもつ縦長・細長のヴォリュームである。1階は床が段々に上がることで地形を吸収しつつ、内壁を袖壁で分節し、さまざまな場をつくり、前後は大きなガラスの開口によって視線が建物を貫通する。2階はチャーミングな動きをする開口を全開にすると、樹上に浮かぶフロアに変化する。また屋根をスライドさせてから登ることができる屋上も楽しい。


宮晶子 / STUDIO 2A《那須の山荘》1998(栃木県那須郡那須町)


《那須の山荘》の内装


帰路の途中、明治建築である《旧青木家那須別邸》(1888)を見学した。正直、なめていたが、いずれもドイツに留学した施主の青木周蔵、設計者の松ヶ崎萬長ともに、創成期の日本建築学会にとって重要人物だったことを知る。別荘も当初はシンメトリー重視で矩形の観念的なプランだったが、のちの増築によって左右のウィングともに、かなり奇妙な和洋折衷の空間やズレが生じ、ヴェンチューリ的だった。この建物の背後には、奈良美智の作品やコレクションを展示している、イシダアーキテクツスタジオ設計の《N's YARD》(2017)という美術館もある。



松ヶ崎萬長《旧青木家那須別邸》1888(栃木県那須塩原市)


《旧青木家那須別邸》内装



イシダアーキテクツスタジオ《N’s YARD》2017(栃木県那須塩原市)

2019/05/01(水)(五十嵐太郎)

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