artscapeレビュー

山本聖子「白いシロ」

2019年06月15日号

会期:2019/05/24~2019/06/09

Gallery PARC[京都府]

「白」という色彩に着目し、「清潔」「純粋」「無垢」「平和」といった私たちの生活空間におけるポジティブな意味の付与と、「他の色を排除して成り立つ排他性」という暴力性の両側面に言及してきた山本聖子。本展では、物件広告の「間取り」の線を切り抜いて織物のように繋げた作品を起点に、「白」の多彩な面に言及した作品群が展開された。



[撮影=麥生田兵吾 写真提供: Gallery PARC]


本展を通覧して、とりわけ2Fのメインフロアの作品群から感じたのは、(ホワイトキューブの「白い壁」が、その物質的存在を消去された「透明な支え」として機能するように)ここで「白」の背後に隠された本当の主題は何か、ということだ。切り抜かれた間取りの線がタペストリーのように連なった平面作品と向き合うのは、市販の女児向けのぬりえ帳である。「アイドル」「ケーキ屋さん」「がっこうのせんせい」「ファッションデザイナー」「フライトアテンダント」といった「憧れの仕事」に就く女性たちのイラストは、輪郭線の内部が修正液で白く塗りつぶされる。あるいは間取り図と同様、切り取られた輪郭線が繋ぎ合わされ、遠目には抽象的な曲線のドローイングのようだが、よく見ると、ドレス、セーラー服、ツインテール、エプロンなどの記号的線であることが分かる。また、切り抜かれた線の内側部分は、白い石鹸で囲まれて台の上に安置され、キラキラの眼、顔、髪、腕や足など身体パーツ(の断片)であることも相まって、彼女たちの死を弔う祭壇のようだ。反対側のスピーカーからは、「白い四角は侵してはならない」「美しい」「純粋」「匂いがしない」「見えない」といった囁き声が聞こえ、「白い四角は」という単語の反復と相まって、脅迫的ですらある。



[撮影=麥生田兵吾 写真提供: Gallery PARC]



[撮影=麥生田兵吾 写真提供: Gallery PARC]


真っ白で清潔なタオルや衣服、家電製品、食器、エプロン、食品の容器や洗剤のパッケージ。それらで居心地よく満たされた居住空間、すなわち不動産物件の間取りの多くもまた、カップルや核家族を対象にしたものだ。そこでは、「家庭内を美しく、清潔に整え、家族が笑顔と健康でいられるよう平和に保つ」役割は、家事と育児を担う再生産労働者としての女性に担わされてきた。ここで、過剰な「白」への脅迫衝動の背後に隠された「見えない」存在として、「清潔」「純粋」「無垢」「平和」を期待された理想的な女性像を読み込むことも可能である。ちなみに「いろんなおしごと」の例のぬりえ帳には、「母親」はない。

2019/05/25(金)(高嶋慈)

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