artscapeレビュー
櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展
2019年06月15日号
会期:2019/04/12~2019/05/19
Gallery AaMo[東京都]
櫛野展正が刊行した書籍『アウトサイド・ジャパン』(イーストプレス、2018)と同じタイトルであり、章名や順番も一致するものが多く、ある意味で彼が出会ってきた日本各地のアウトサイダー・アートの総集編的な内容だったが、やはり展覧会において実物を鑑賞できるインパクトは大きい。とくに緻密に描きこまれたり、執拗に反復された表現などは、小さな紙面では迫力が十分に伝わらないからだ。また展覧会の序文に書かれていたように、会場に作家が毎日やってきて絵を描いたり、自作の下駄を交換するプロジェクト、青森に行くツアーを企画するなど、ホワイトキューブからの脱出を試みている。
総勢70数名の表現者が参加しており、彼が拠点とする広島圏が多いように思われたが、おそらく今後もさらにリサーチを継続すれば、全国にもっと見つかるだろう。ともあれ、彼が福山市に開設したギャラリー「クシノテラス」はそれほど大きなスペースではなかったので(今後、常設の展示室がつくられる予定)、東京でこれだけ一堂に会する展示を見ることができるのはありがたい。
近年、オリンピック、パラリンピックにあわせて、文化政策として「アール・ブリュット」がよく使われ、メジャーになっているが、櫛野はあえて「アウトサイダー・アート」の語でないと伝わらない表現者の活動に注目している。日本では、1990年代に展覧会を通じて、「アウトサイダー・アート」が知られるようになったが、近年は障害者のアートに焦点があたるとともに、「アール・ブリュット」が一般化した。が、もともとデュビュッフェが命名した「アール・ブリュット」は、美術の正規教育を受けていない人の作品を指しており、必ずしも障害者のアートだけを指すものではない。ゆえに、櫛野は前掲書において「そもそも障害がないと優れた作品が生み出せないわけじゃない。……障害者の表現だけが優遇され、障害のない表現者は周到に排除されている日本の現状」に叛旗をひるがえす。つまり、飼いならされた日本版「アール・ブリュット」からもはみでる「アウトサイダー・アート」なのだ。
2019/05/10(金)(五十嵐太郎)