artscapeレビュー

やなぎみわ展「神話機械」、阪中隆文「Outdoor」ほか

2019年06月15日号

商店街の空き店舗を利用したMaebashi Worksのトークイベントに呼ばれ、「『ヤンキー文化論序説』(河出書房新社)刊行から10年、日本はどうなったか」について語った。当初は文化論を語ればよかったが、いまや空疎な気合主義によるヤンキー政治が増大していることが大きな変化だろう。会場はアーツ前橋が登場したのと同じ頃に動きだしたアートスペースらしい。


「Maebashi Works」の屋上に設置された作品


ほかにも前橋ではいろいろな展開が起きているが、すぐ近くのmap 前橋"市民”ギャラリーでは、阪中隆文の個展「Outdoor」が開催されていた。筆者が審査員をつとめた名古屋のアーツチャレンジの公募において、最後ぎりぎりで落ちてしまったアーティストである。白い壁に数多くの安物、不用品、拾い物を固定し、これらを使って、ボルダリングができる作品だった。アーティストの靴の跡が壁に黒く残っている。またギャラリーの床を切開し、地面に穴を掘って外に脱出した、過去の映像作品なども展示されていた。前者はホワイトキューブで身体を駆使するマシュー・バーニー、後者は建物を刻むゴードン・マッタ=クラークを想起させるが、その進化形でもある。お金がなくとも、展覧会の制度そのものを批評できる作品だった。


「阪中隆文個展 Outdoor」展示風景。無数の安物や不用品、拾い物が白壁に固定されている



「阪中隆文個展 Outdoor」より。白壁に固定された展示物を使って、実際にボルダリングができる


さて、アーツ前橋では、やなぎみわの久しぶりの個展「神話機械」が巡回していた。「エレベーター・ガール」、「マイ・グランドマザーズ」、「フェアリー・テール」など、一貫して女性を題材にしたシリーズを総覧できる内容だが、近年、彼女が力を入れている演劇作品のアーカイヴ、「古事記」に着想を得て桃の木を撮影した写真の近作、そして各地の高専や大学の協力をえた「神話機械」のインスタレーションも紹介している。全体を通して見ると、写真の作品のときから綿密に物語を設定していたわけだから、それが演劇に展開していくのは必然だったことがよくわかる。タイミングよく、「神話機械」の無人演劇を鑑賞することができたが、機械の動作をずっと眺めているうちに、観客も無人の状況を想像したくなった。頭蓋骨を投げる、拍手する瓶、あちこち動いて語るなど、4つのマシンが活躍するのだが、ある意味でもっとも無目的な「のたうちマシン」の動きがシンプルながらとても不気味で、やばかった。


「やなぎみわ展 神話機械」展示風景より



「やなぎみわ展 神話機械」展示風景より


やなぎみわ展 神話機械

会期:2019年4月19日(金)~6月23日(日)
会場:アーツ前橋(群馬県前橋市千代田町5-1-16)
公式サイト:http://www.artsmaebashi.jp/?p=12932

2019/05/24(金)(五十嵐太郎)

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