artscapeレビュー
中山英之展「, and then」
2019年06月15日号
会期:2019/05/23~2019/08/04
TOTOギャラリー・間[東京都]
ギャラリー間では、ベスト級の展覧会だった。個人的に良い展覧会のポイントは、以下の3つである。第一に素晴らしい作品、もしくは貴重な資料があること。第二に、ここでしか体験できないこと(すなわち、書物に置き換えにくい内容)。そして第三に、展覧会の枠組を改めて問うこと。とくに映像との関係で建築展をひっくり返すことに成功している。どういうことか。通常、建築展において映像は付属物として扱われる。だが、本展のメインとなる4階を、むしろ彼の作品について制作された6編のショート・ムービーを上映する映画館=「シネ間」とし、3階を映像に関する資料、ドローイング、模型などの展示場とした。つまり、建築家の手を離れた後、現在、どのように住宅が使われているかを伝える、ドキュメンタリー映画の方が主役である。また『家と道』以外は上映時間10分以内に抑えられ(あまり長過ぎないことも好感がもてる)、休憩・CMを含めて、ちょうど1時間のタイムテーブルが組まれている。
過去にも千葉学が数名の施主に使い捨てカメラを送り、住宅の現状を撮影したものを活用する展覧会があったが(建築家に依頼するだけに、写真のセンスが良いことにも感心)、今回は施主だけでなく、さまざまなアーティストが撮影しており、建築の特徴を引きだしつつ、それぞれの強い個性が反映されている。とくに実見したことがある「O邸」は、訪問したときに比べて、かなり使い倒されている雰囲気がよくわかった。『Mitosaya薬草園蒸留所』はライブ感あふれる商品の製造過程をとらえ、「弦と孤」は上下と回転運動のみによるカメラが1日の様子を撮影し、ギャラリー間としては破格に横長の三面スクリーンに映しだされる。『2004』はかわいらしいアニメーションと写真のスライドショーであり、「家と道」は入念に演出された人々の動きをカメラのアングルを変えながら紹介する(もっとも面白い作品だったが、5回目のループはなくてもよかったかもしれない)。
2019/05/31(金)(五十嵐太郎)