artscapeレビュー

The end of company ジエン社『ボードゲームと種の起源・拡張版』

2019年07月01日号

会期:2019/05/29~2019/06/09

こまばアゴラ劇場[東京都]

本作は同タイトル・同モチーフ・同設定のもと、2018年12月の「基本公演」と2019年5月の「拡張公演」の二つのバージョンが上演された。こちらは拡張公演のレビューとなる(基本公演のレビューはこちら)。

家族、あるいは男女の関係の新たなあり方を模索しつつも異性愛男性中心の価値観の強固な支配から逃れられなかった基本公演。拡張公演では「その後」、あるボードゲームカフェの開店が断念されるまでの時間と周囲に集う人々の関係の変化が、錯綜した時間軸のなかで描かれる。

© 刑部準也

結論から言えば、異性愛男性中心の価値観は本作においても温存されている。男性の登場人物が3人に増えたため「ギャルゲー」の印象はなくなったものの、本作においても女性の登場人物が男性の物語を担保するための駒として配置されている印象は拭えなかった。支配的な価値観を転覆することはかくも難しい。

そんななかにあって、新たにコミュニティに参加しようとしながら、ゲームに誘われるたびに「できません」と繰り返す女・そつある(湯口光穂)の存在は際立っている。彼女の発言や行動は一見したところ場の空気を読まない「迷惑な」ものだが、場を規定するそもそものルールが理不尽であるとき、その土俵(この言葉自体、男性原理に支配されたフィールドを指すものであった)で勝負すること自体に異を唱えるのは真っ当なふるまいだろう。

おそらく、作者の山本健介は自らに巣食う男性原理に気づいているのだ。基本公演同様、本作でも劇中にはオリジナルのゲームが登場する。『魔女の村に棲む』と題されたそれはインディアンポーカーと人狼を組み合わせたようなゲームで、二つの陣営に分かれたプレイヤーは、自らがどちらの陣営に属しているかわからないままに、自分たちが「多数派」となるよう「相手」を排除していくことを要求される。

ゲームの作者・中大兄(寺内淳志)は「このゲームで何がしたいっていうのが見えてこない」と言われ「話し合いがしたい」と答える。ゲームに民主主義を導入する試みにも思えるが、話し合いを目的に据えている時点で転倒しているのは明白だ。そこで話し合われるのは「誰が死んだ方がいいか」であり、「自分とは違う人」をあぶり出し排除するのは民主主義ではない。

しかも、プレイヤーは自らがどちらの陣営に属しているかを知らない。ジエン社の作品の多くで東京は何らかの災害に襲われており、本作でも舞台となる街の川向こうに見える東京では火の手が上がっている。登場人物たちは時おりぼんやりとその煙を眺めるが、いつしか炎は我が身に迫り、ラストでは中大兄の家も燃えてしまう。対岸の火事は果たして本当に対岸のものか。

© 刑部準也

© 刑部準也


インディアンポーカー(Wikipedia):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC#%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC

人狼(汝は人狼なりや?/Wikipedia):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9D%E3%81%AF%E4%BA%BA%E7%8B%BC%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%82%84%3F

公式サイト:https://elegirl.net/jiensha/

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