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安藤忠雄(原作)/はたこうしろう(絵)『いたずらのすきなけんちくか』

2020年03月15日号

発行所:小学館

発行日:2020/03/03

建築家の安藤忠雄が、大阪・中之島公園内に子ども向け図書館「こども本の森 中之島」を設計し、大阪市に寄贈した(2020年3月1日開館予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、現在、開館が延期されている)。その開館に合わせて刊行されたのが本書である。なんと安藤が初めて挑んだ絵本ということで興味を惹かれ、手に取ってみた。当然、同図書館の紹介を切り口としながらも、途中から「建築とは何か」という安藤の思想に迫る内容となっていた。

主人公は小学生くらいの兄妹。父に連れられて「こども本の森 中之島」を訪れるが、父とは入り口で別れ、兄妹だけで館内を探検する。3フロア吹き抜けの構造や壁一面に設けられた本棚など、館内を一望する絵がまず大きく描かれる。肝はここからだ。本棚の脇から伸びる細い廊下を発見した兄妹は、「ひみつの においがする」と興味津々で突き進む。すると天井が高い円筒形の空間にたどり着いた。なんとも不思議な空間にワクワクする兄妹の前に、黒い服を着たおじさんが現われる。このおじさんこそ、安藤忠雄らしき人物だ。本物よりやけにスレンダーで若々しいのが気になるが、髪型はそっくりに描かれている。兄妹からおじさんへ素朴な質問が次々と投げかけられ、おじさんは率直に答える。これが実に興味深い。この円筒形の空間のように、よくわからない変な場所は何のためにあるのか。キーワードとして、おじさんは「いたずら」という言葉を使う。頑丈で機能的な建物は便利だけど、それだけではつまらない。「だから ぼくは、たてものに いたずらを しこむんだ」と。

その事例として直島の「ベネッセハウス」や大阪の「光の教会」、「住吉の長屋」など、安藤の代表的な建築作品が登場する。壁一面の十字架も、雨の日に部屋から部屋へ移動するときに傘をさして歩くことも、すべて安藤のいたずらだったのか! 子どもに向けたわかりやすい言葉として選ばれたとはいえ、いたずらという言葉は実に言い得て妙である。これは悪ふざけというよりは、「無駄なもの」という意味に近い。一見、無駄に思えるものこそ、「どんな風に使おうか」と人の想像力をかき立てるから面白いのだ。それが、安藤が建築に求める真髄だった。確かにその通りなのだ。便利なものは人の心にあまり残らないが、面白いものは心にずっと残り続ける。安藤の建築作品が印象的なのは、大人が真剣に考えて設計、施工したいたずらが仕込まれているからなのだ。

2020/03/05(木)(杉江あこ)

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