2020年11月15日号
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artscapeレビュー

ロロ『四角い2つのさみしい窓』

2020年03月15日号

会期:2020/01/30~2020/02/16

こまばアゴラ劇場[東京都]

2019年に立ち上げから10周年を迎えたロロの新作は、作・演出で劇団主宰でもある三浦直之の原点に立ち戻りつつも新たな一歩を踏み出す、セルフタイトルにふさわしい作品となった。

劇団員俳優5人(と制作の坂本もも)によって演じられるのは、劇団溜息座が解散公演に至るまでの道ゆきと、旅先で出会いともに過ごすことになる2組の男女の道中だ。溜息座の公演を見て「一目惚れ」し、劇団員になろうとするサンセビ(亀島一徳)。だが団長であるヤング・アダルト(森本華)の遅筆(?)が原因で溜息座は次の公演で解散することになっているという。サンセビは解散をなんとか思いとどまらせようと劇団に同行するが──。一方、旅行で夜海原を訪れた七緒(望月綾乃)と春(篠崎大悟)は、駅で電車に轢かれかけたムオク(亀島)を助けたことをきっかけにムオクとユビワ(島田桃子)の二人連れと出会う。ユビワは二人の旅を新婚旅行だと言うがそれは嘘で──。

[撮影:三上ナツコ]

かつて溜息座に所属していたムオク。同じく亀島が演じ、ムオクに似ていると言われるサンセビがそうであったように、ムオクもまた公演を見て「一目惚れ」し、溜息座に入団したのだった。亀島というひとりの俳優を介して、二人の男の演劇との出会いと別れが重ね合わされる。

重ね合わせられるのはムオク/サンセビだけではない。望月と篠崎はそれぞれ溜息座の団員である「屋根足りない」と「フィッシュ&チップス」も演じ、二つの旅を、劇団の内外を往還する。そこにはロロのメンバーとしての俳優たちの、そして彼らの劇団外の姿も重なってくる。旅の終着地点は公演会場となる世界初の透明な防潮堤・ゴーストウォールだ。二つの旅は交わり、そして再び離れていく。現実とフィクションの、「こっち」と「そっち」の行ったり来たり。

[撮影:三上ナツコ]

作品のタイトルはロロという劇団の名前を示し、同時に人間という存在のさみしさを表わしてもいる。私は私自身の二つの目を通してしか世界を見ることはできない。私がいるところはいつまでも「こっち」のままだ。本当に「そっち」に行くことは叶わない。いや、行けたとして、そのときには「そっち」は消えてしまうのだ。「あたしが彼方と出会ったら、もうこの道はなくなってしまうでしょ」。

もちろん劇中で言われるとおり、「そっち」は「舞台上と客席の間に透明な壁」が存在していない演劇のように「ほんとは、もともと危ないもの」だ。境界は簡単に踏み越えられ、傷つけ傷つけられる可能性がそこにはある。にもかかわらず、本当に「そっち」に行くことは決してできない。私自身の輪郭が「透明な壁」として立ちはだかる。「四角い窓」が「2つ」なのはそこに私と「あなた」がいるからで、なのにその窓は決して通り抜けられない。だから「さみしい」。

しかし、それでもなお、三浦は「こっち」と「そっち」を行き来することの可能性を信じている。「ねえ、真実 こっちにおいで/ねえ、真実 こっちであそぼう/ウソとホントのアイスダンスをしよう/ねえ、フェイク そっちいっていい?/ねえ、フェイク そっちで歌おう/ウソとホントもなくしたあとで/オリジナルたちのパレードをしよう」。江本祐介による劇中曲の歌詞のなか、「こっち」と「そっち」は魔法のように同じ側を指し示す。

[撮影:三上ナツコ]

俳優は、演劇は、フィクションは、想像力は、少しのあいだ壁の向こう側を見せてくれる。これまでも三浦は折に触れフィクションへの、先行作品への愛を語り無数のオマージュを捧げてきた。「そっち」に触れて惹かれたサンセビの、そしてかつてのムオクのように、三浦もまた「そっち」からの声に応えるようにしてフィクションを紡ぐ。

夜海原の特産品だというマガイは「ホヤみたいな」ものだった。だが、ホヤはWikipediaによれば「俗称でホヤガイ(海鞘貝、ホヤ貝)と呼ばれることがあるが、軟体動物の一群に別けられる貝類とは全く分類が異なっている」らしい。マガイはホヤの紛い物だが、一方でホヤは貝の「紛い物」であり、マガイを真貝と書くならば、マガイこそが本物(の貝)なのだということになる。本物と偽物は絡み合って見分けがつかない。

創作を、劇団を続けるということはどうしようもなく現実で、三浦はそれさえもフィクションへと折り返す。メンバーはいつか劇団を離れるかもしれない。観客はいつか劇場に足を運ばなくなるかもしれない。だが、ユビワがそうしたように関係を名づけ直し、ムオクがそうするように「何回だって彼方と此方を往復」し「再会し続け」ることはいつだって可能なはずだ。ラストシーン、「こっちこっち!」と舞台上から客席に呼びかけ手招きし続ける5人の俳優の姿は優しく、でもやはりさみしいのだった。

移動式の芝居小屋のような舞台美術(杉山至)で上演された本作は、溜息座と同じように旅に出る。徳島と東京での公演を終えた彼らの次の目的地は4月の福島と5月の三重。再演を見据えてつくったという本作の、彼らの旅はまだまだ続く。

[撮影:三上ナツコ]


公式サイト:http://loloweb.jp/window/

2020/02/05(水)(山﨑健太)

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