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木村孝写真展 ライフ・コレクション・イン・ニュータウン

2020年04月01日号

会期:2020/02/26~2020/03/10(03/03〜03/10は臨時休館)

銀座ニコンサロン[東京都]

とても興味深いテーマの写真展である。木村孝は、2014年からタイ・チョンブリー県のアマタナコーン工業団地に隣接する集合団地を撮影し始めた。最初は団地を「風景」として撮影していたが、今回、銀座ニコンサロンで開催された個展「ライフ・コレクション・イン・ニュータウン」では、集合団地やその周辺の地域の住人たちと、彼らが暮らす部屋の内部にカメラを向けている。

もともとアマタ・コーポレーションという大企業が、工業団地で働く人々のための集合住宅を建造したことから、商業施設なども増え、「ニュータウン」が形成されていった。まったく何もない場所にできあがった「過去のない街」の空気感が、部屋の中のなんとも表層的な家具や壁紙、部屋の住人たち(若者が多い)の、どこか寄る辺のない不安げな表情から伝わってくる。木村のやや引き気味で、部屋の細部まできちんと画面におさめていく撮り方も、とてもうまくいっていた。

このような、都市そのものの生成のプロセスを、そのごく初期の段階から撮影していくプロジェクトは、ありそうであまりないのではないだろうか。「風景」から「部屋」へという展開も悪くないが、これから先がむずかしくなりそうだ。今のところ、カタログ的、羅列的な展示構成なのだが、次は住人一人ひとりにもっと寄り添ったストーリーが必要になってくるだろう。10年くらい撮り続ければ、アマタナコーンをもっと立体的に浮かび上がらせることができる、厚みのある写真とテキストがかたちをとってくるのではないだろうか。より大きな広がりを持つ写真シリーズになっていくことを期待したい。

なお、本展の会期は、新型コロナウイルス感染症の広がりの影響で短縮されてしまった。大阪展(3月19日〜4月1日)は開催される予定だが、当面のあいだ臨時休館となり、状況は予断を許さない。本展に限らず、あまり観客数が多くない美術館やギャラリーでの展覧会を、一律に中止してしまうことには疑問が残る。

2020/03/02(月)(飯沢耕太郎)

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