artscapeレビュー
小林秀雄新作展 街灯
2020年04月01日号
会期:2020/02/28~2020/03/28
EMON Photo Gallery[東京都]
仕掛けを凝らした場面を設定し、自ら考案した光学装置を使って、1990年代からユニークな作品を発表し続けてきた小林秀雄の新作展である。今回は「街灯」、「花と電柱」、「街灯135」の3シリーズが出品されていた。
メインの展示となる「街灯」では、どこか奇妙な雰囲気のある「不自然な所」で街灯が光を放っている。公園や田んぼや菜の花の群生の中などにある街灯は、どうやら作り物のようだ。「花と電柱」では、電柱(これは本物)の周辺に赤い花々が見える。ヌードの女性が立っていることもある。これらは多重露光で合成したものだという。小林は8×10インチの銀塩大判フィルムを使っているので、暗室の中での合成作業ということになるだろう。「街灯135」では35ミリ判のカメラで撮影しているが、街灯と街灯のあいだでもシャッターを切っている。街灯と、何も写っていない暗闇を写し込んだフィルム6コマ分を提示し、写真の中に「移動した距離、撮影した行為による時間」を取り込もうとする。
3シリーズとも技巧を凝らしたものだが、そのことはあまり気にならない。むしろ、夜にふと街灯を見上げて、「現実と非現実、この世とあの世が、振り子が揺れるように行き来しながら、彷徨う」ように感じたという小林の体験が、リアルな実感をともなって再現されている。小林の仕事は、写真という枠組みを超えた、「光と闇」にかかわる普遍的な表現の域に達している。もう少し評価されていいアーティストではないだろうか。
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