artscapeレビュー

鈴木恵理子「雨んぢゃく」

2021年07月01日号

会期:2021/05/25~2021/06/07

ニコンサロン[東京都]

あまんぢゃく」というのは、群馬あたりでよく使われる言葉で、出先でよく雨に降られたり、雨の日を好んだりする人のことをいうのだそうだ。鈴木恵理子もどうやら筋金入りの「雨んぢゃく」のようだ。ニコンサロンの個展会場には、雨の日に撮影された(雪の日も数点あり)写真、42点が並んでいた。

雨の日は、たしかにスナップ写真の撮影に向いている。見慣れた眺めが非日常化し、人の振る舞いやモノのたたずまいがまったく違ってくるからだ。湿り気を帯びた風景がどこか懐かしいのは、われわれ日本人のDNAに、雨に降り込められた日々の記憶が深く埋め込まれているからだろう。ちょうど写真展に足を運んだ日も雨模様だったので、写真に写っている情景が実感をともなって目に飛び込んできた。すべての写真を縦位置で撮影しているのもうまくいっていた。縦位置だと、風景を切り取る意識が強くなるので、それぞれの場面の意味がより強調されて伝わってくる。雨の日は小さなドラマの宝庫であることを、あらためて確認することができた。

いいシリーズなので、ぜひもっと規模の大きな展示や写真集の出版を考えてほしいのだが、その場合はもう一工夫必要になるかもしれない。縦位置のスナップ写真だけだと、単調になってしまうので、より広がりのある横位置の写真や、距離をとって俯瞰するような風景も必要になりそうだ。撮影場所は東京・渋谷や二子玉川あたりが多いようだが、もう少し範囲を広げてもいいだろう。

2021/05/27(木)(飯沢耕太郎)

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