artscapeレビュー
名和晃平「Wandering」
2021年07月01日号
会期:2021/06/05~2021/07/03
Taka Ishii Gallery Photography / Film[東京都]
動物の剥製などの表面を、クリスタルガラスの球体で覆った「PixCell」シリーズで知られる現代美術家、名和晃平のかなり珍しい「写真展」である。名和は彫刻やインスタレーション作品に移行する直前の京都市立芸術大学在学中に、「下宿にあった中古カメラ」で、街のスナップショットを撮影し始めた。今回は「実家の段ボール箱」に放り込んだまま、20年以上そのままになっていたという写真群から、カラー20点、モノクローム5点をキャビネサイズほどに引き伸ばして展示している。
上手なスナップショットといえるだろう。現代美術作家が陥りがちなコンセプチュアリズムや極端な画像処理などには目もくれず、むしろ淡々と「興味の向くまま撮り溜め」ているのが逆に面白い。むろん街を彷徨いながら、被写体を画面に的確に配置し、物質性よりもむしろ空気感を捉える力は際立っている。名和の作品は、どちらかといえばモノトーンのものが多いのだが、カラー写真の色味の出し方に精妙なセンスを発揮しているのも興味深かった。
今回の展示は、蔵出しの仕事のお披露目といった側面が強かった。だが、名和がいま再び写真に関心を持ち出しているという話を聞いて期待がふくらんだ。それがどんなものになるのかはわからないが、本格的な写真作品として成立してくるといいと思う。そうなると、この「Wandering」も、また違った見え方をしてくるのではないだろうか。
2021/06/04(金)(内覧会)(飯沢耕太郎)