artscapeレビュー

GOTO AKI「event horizon ─事象の地平線─」

2021年07月01日号

会期:2021/06/17~2021/07/11

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

「event horizon ─事象の地平線─」というタイトルの意味が、DMなどではもうひとつよくわからなかったのだが、会場で写真を見ていて腑に落ちた。風景のなかにあらわれてくる事象=出来事に焦点を合わせた展示だったのだ。たしかに風景に目を凝らしていると、それがスタティックに固定されているのではなく、さまざまな出来事が次々に生起し、流動的に移り動いていることがわかる。しかも、それらの出来事は単独で起こるのではなく、互いに結びつきあって、地球規模の自然の事象として出現する。GOTOがもくろんでいるのは、「もともと名前はなく、人間が期待するような意味もない」「太古からの時の多層的な連なりとその時々の光と風の中で、変容しながら存在している」風景のあり方を、幅広く、しかも細やかに捉えようとする試みなのだ。

ただ、よく練り上げられていてすっきりとした展示なのだが、ややまとまりがよすぎる印象も受けた。自然/風景は、GOTOのいうように「人間が期待するような意味」を超えて存在している。だが、今回の展示作品は、どちらかといえば、コントロール可能な範囲におさまっているものが多かった。とはいえ、DMにも使われた波の形にめくれた雪の写真のように、自然現象の深み、不可思議さがよくあらわれたものもある。この作品は、植田正治の1970年代の傑作「風景の光景」の「波が生まれる瞬間」の写真に通じるのではないだろうか。GOTOが展覧会に寄せたコメントには、「外側の風景とそこから受ける内的な感覚が重なり、認識の外側に新たな地平が浮かび上がる」とあった。その通りだが、内と外のバランスを取るのはなかなか難しい。あまり性急に「内的な感覚」に頼ることなく、「外側の風景」をもっと突き放して描写する必要があるのかもしれない。

2021/06/18(金)(飯沢耕太郎)

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