artscapeレビュー

牛腸茂雄 写真展 「SELF AND OTHERS〈失われた瞬間の探求、来たるべき瞬間の予兆〉」

2021年07月01日号

会期:2021/04/29~2021/06/02

BOOKS f3[新潟県]

牛腸茂雄が1983年に亡くなってからもう40年近いのだが、彼の仕事への関心は若い世代にも持続している。新潟市で写真集書店BOOKS f3を運営する小倉快子もそのひとりで、今回、長年あたためていた「牛腸茂雄展」を実現した。

展示の中心になっているのは、牛腸の桑沢デザイン研究所リビングデザイン研究科写真専攻の同級生、三浦和人がプリントした「SELF AND OTHERS」のモダン・プリント15点だが、むしろ小倉が新潟県加茂市の牛腸の実家を訪ねて借りてきたという、周辺資料が興味深かった。使用していたカメラ(ミノルタオートコード、キヤノネットQL−25、キヤノンAE−1)、生前の展覧会のDM、写真集『SELF AND OTHERS』(白亜館、1977)の台割表、印刷用の青焼、桑沢デザイン研究所の卒業記念展カタログなどもある。自筆のノートには子供の頃の顔写真が貼られ、几帳面な字で、「あの しじまの広がりの中で/脈打つものは/波が蹴散らす火花の音か?」という詩の一説が記されている。生前、牛腸が好んで読んでいた、みすず書房の心理学関係の書籍も棚におさめられていた。これらの資料と写真とを照らし合わせることで、あらためて牛腸にとっての「失われた瞬間」「来たるべき瞬間」を探り当てる、とても実りの多い時間を過ごすことができた。

新潟市美術館、三鷹市美術ギャラリー、山形美術館で、回顧展「牛腸茂雄 1946−1983」が開催されたのが2004年なので、その後の調査・研究の成果も含めて、そろそろ彼の新たな像を作り上げていくべき時期に来ている。ぜひどこかの美術館で、大規模展の企画を進めてほしいものだ。

2021/06/02(水)(飯沢耕太郎)

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